Reportage
SELP訪問ルポ
本格的な花ござの製造に取り組む「健康荘」
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学正会の概要
学正会は、養徳苑(生活介護・施設入所支援・短期入所)、健康荘(生活介護・施設入所支援・短期入所・計画相談支援)、第三白梅学園(生活介護・施設入所支援)、3カ所のグループホーム等の障がい者支援事業所を運営する社会福祉法人である。
この他、蒲池保育園、柳川保育園、白梅学園(児童養護施設)、第二白梅学園(福祉型障がい児入所施設)、三歳寮(小規模養護施設)、第二 三歳寮(小規模養護施設)等の児童施設や、ふるさとホーム(特別養護老人ホーム)、第二おやさと(特別養護老人ホーム)、よのもと(特別養護老人ホーム)、ヂンナー桃源郷(通所介護施設)、ヂンナー甘露郷(小規模多機能型施設)等の高齢者施設も運営する。
前身となるのは、初代理事長金納学氏の父、金納伊之助氏によるハンセン病患者の保護・授産活動である。熱心な天理教信者でもあった伊之助氏は、自宅(蒲池教会)で患者たちを保護する慈善活動を行っていた。癩予防法(1931年)の制定によって患者はすべて療養所(国立星塚恵愛園)に移行することになったが、こうした弱者救済のこころが戦後の混乱と窮乏を引きずるなかでの蒲池保育園、孤児を救うための児童養護施設白梅学園設立へとつながっていく。その後も障がい者、高齢者へと対象者を拡大し、現在では、13施設、17事業を有する大きな法人へと成長を遂げたのである。そんな学正会のなかでも、障がい者支援事業所である健康荘(開所当初は授産施設)を訪れ、詳しいお話を伺った。
生活介護とは思えない本格的な「花ござ」製造作業
健康荘の最大の特色は、仕事に特化した生活介護事業所であることだろう。作業の中心は、い草織り機を使った花ござの製造だ。1階の広い作業所には7台もの機械が並び、朝の9時から夕方の4時まで、休むことなく織機が作動してござが織られていく。施設長の久保田健吾さんは、次のように説明する。
「この仕事は、開設当初から企業の下請けとしてずっと続いています。事業所がある筑後地区は、以前は日本でも有数のい草の産地。古くから地場産業として花ござの製造が盛んでした。近年、中国産の安価ない草が台頭してきたので全国的にも生産量は減りつつありますが、国産の高品質な花ござへのニーズはむしろ高まっています。絵柄を自動的に織り込む織機を7台設置しているため、生産量も安定しています。一台だけで、1日約30畳の花ござを織ることができるんですよ」
最近では、畳コースターが外国人観光客にとてもよく売れているらしい。これまでにもい草グッズとしてお土産用に作られていた商品ではあるが、日本人相手には思ったほどの人気は出なかった。しかしパッケージやデザインをインバウンド向けに変えたところ、大ヒット。確かに「雷門・日本」といった漢字や、「富士山・招き猫・ダルマ」といったイラストを折り込んだコースターは、外国人観光客たちに受けそうだ。
織り機を操るのは、ベテラン職人ともなった利用者たちである。創設時から働いている人たちも数名おり、機械操作に関しては若手職員よりも詳しくなってしまった。花ござ部門における利用者の年齢は、半数が60歳以上だという。なかには72歳というベテランもいる。職人として仕事を任せるには安心だが、体力的にもそろそろ限界が近づいているのも事実。かといって新たに入所してくる若手の利用者たちは、本格的な機械を操作した仕事を好まなくなってきている。歴史ある法人ならどこでも抱える共通の課題に対し、どんな方向性を打ち出していくべきか、試行錯誤は続いている。
海苔養殖のための牡蠣殻連づくりやオーラルピース等の販売代行
花ござと共に力を入れているのが「海苔の養殖に使う牡蠣殻連づくり」である。有明海は日本有数の海苔の産地であり、糸でつないだ牡蠣殻に胞子を植え付けそれを海に沈み込ませていく。健康荘では、牡蠣貝殻に穴を空け、糸でつなぐという作業を専門業者から請け負っているのだ。今や、この作業に従事する利用者の数は、約40名になった。花ござ織りを担当するのが10名程度だから、3倍以上の方がこの仕事をしていることになる。人数だけで言えば、もはや健康荘の中核を占める作業といっていい。
「生活介護とはいえ、利用者にとって生産活動は生きがいですから、工賃向上とは無縁ではいられません。近年は、物品の仕入れ販売等にも取り組むようになりました。職員も利用者さんも、販売活動とはこれまで無縁だったので、勉強も兼ねてイベントなどに出店してもらい、製品を売る体験をしてもらっているところです」と、理事長(統括施設長兼務)の金納理一さん。
以前、久保田施設長がSELP全国研修会でオーラルピースを製造販売する株式会社トライフの手島大輔さんの講演を聞き、とても感動したことがあった。これまでの抗生物質や合成殺菌剤に比べ、超低濃度で瞬時にアプローチしながら、飲み込んでも安全な歯磨き粉である。食品成分100%、ケミカルフリー、プラントベース、生分解性100%の口腔ケア製品という特色は、障がいのある人たちにもぜひ広めるべきだと考え、法人としてその「販売権」を取得した。地域限定ながら新聞広告も打ち、この製品を大々的にアピールしている。法人活動の幅広い人脈を活かし、製品の普及と販売マージンの獲得により、健康荘の利用者工賃向上につなげたいのだという。
長崎県対馬市のあゆみ園で製造される「藻塩と白炭セット」の販売取次も、教会とのつながりが深い健康荘ならではの仕事と言えるのかもしれない。事業所の基本方針である「生かされる喜び、働ける喜び、扶け合う喜びを!」を進めるためにも、チャンスがあれば何でも取り組んでいく。設立以来ずっと中心的に取り組んできた「花ござ製造」という作業にこだわることなく、時代と利用者ニーズに合った仕事の幅を模索しているのである。
高齢化への対応が、喫緊の課題
今後の課題について、久保田施設長に伺ってみた。一番の心配はやはり、利用者の高齢化である。現在、60人定員という入所施設には欠員が生じている。最近では企業も積極的に参入し始めたグループホームの普及により、これから新たに若い利用者が入所してくる可能性は低いと言わざるを得ない。そんな時代の流れに対応するためにも、通所利用者を増やしていく必要があると、久保田さんは言う。
「柳川市内にも今ではいくつかの就労事業所(B型)が出来ましたが、どこも小規模のところが多いのです。むしろ健康荘の方が、生活介護事業所であるにもかかわらず、本格的に仕事をしている就労事業所といえるのかもしれません。その意味では、法人内にある3つの生活介護事業の役割をしっかりと分け、健康荘は今まで以上に就労に特化した事業所として売り出していくべきなのかもしれません」
ハンセン病患者を自宅で保護し、生き甲斐を与えるための生活支援と、養鶏や藁工品の作業を提供していたという法人活動の原点から言っても、利用者たちの経済的自立を促すための健康荘の就労支援活動はまだまだ道半ばなのかもしれない。地域福祉の中核組織として、信仰の香り深い「心の福祉」を実践続ける学正会。「世のため 人のため 力の限り尽くしなば」と謳った創設者の識見を尊重すべく、さらなる発展を遂げてくれることを期待したい。
(文、写真:戸原一男/Kプランニング)
【社会福祉法人太陽の家】
https://www.gakuseikai.or.jp
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2025年05月01日)のものです。予めご了承ください。