特定非営利活動法人日本セルプセンター

お問い合わせ

Reportage

SELP訪問ルポ

社会福祉法人大館圏域ふくし会(秋田県大館市)

公開日:

大館圏域ふくし会の概要

大館圏域ふくし会は、「白沢通園センター」(就労移行支援事業/就労継続支援B型事業)・「矢立育成園」(障害者支援施設)・「道目木更生園」(障害者支援施設)・「軽井沢福祉園」(障害者支援施設)等の障害者施設を運営する社会福祉法人である。この他、「神山荘」「長慶荘」(共に特別養護老人ホーム)等の老人施設やそれに付随する老人福祉サービス事業を各種展開し、秋田県最北部の広大な地域の老人・障害者福祉サービスを一手に担う組織としてさまざまな活動を続けている。

法人内の生産活動としては、「白沢通園センター」の曲げわっぱ加工と並んで「矢立育成園」の比内地鶏飼育&きりたんぽセット製造が以前から有名であったが、2010年4月の新体系移行の際にすべての科目を「白沢通園センター」に統合した。その結果、現在の「白沢通園センター」の作業科目は、クリーニング・医療器具部品加工・曲げわっぱ加工・豆腐製造販売・比内地鶏飼育&きりたんぽセット製造販売と多岐にわたるものとなった。

秋田名物・きりたんぽセットを本格的に製造

ところで秋田といえば、「きりたんぽ」である。秋田県を代表する郷土料理として日本中に知れ渡っている「きりたんぽ」だが、その発祥は大館・北鹿地方である。その昔、炭焼きや秋田杉の伐採のために山ごもりした人たちが、山小屋でいろりを囲んで残り飯やおこげを練って鳥鍋に入れたり、味噌を塗って食べた。これが「きりたんぽ」の始まりと伝えられている。

そんな大館地方でごく普通の家庭料理として食べられてきた「おふくろの味」を、忠実に再現して商品化しているのが「白沢通園センター」のきりたんぽセットなのである。藤田三寿施設長(58歳)は、次のように語っている。

「昔はどの家庭でも地鶏を飼育し、田んぼで米を作っていました。自分たちが育てた鶏や米を使ってつくったきりたんぽは、まさに自給自作の原点。秋田県の素朴な味わいですね。そんな懐かしい味を、忠実に再現しようと試みたのが私たちのきりたんぽセットです。大館市内は大館きりたんぽ協会という組織もあるほどの本場ですからライバル業者も多い中、昔ながらの製法で丹念に作ることをモットーにしてきました」

最大の特色は、施設内の広大な飼育場で放し飼いにした比内地鶏を使っている点だろう。薩摩地鶏や名古屋コーチンと並んで日本三大地鶏として知られる比内地鶏も、2007年に発覚した大館市内の悪徳業者による表示偽装事件によって信頼が大幅に失われた。現在では、秋田県によってより厳格な比内地鶏ブランド認証制度(※)が確立されている。もちろん「白沢通園センター」が提供するのは、いち早く「秋田県比内地鶏ブランド認証票」を取得し、雛から育てた正真正銘のホンモノの比内地鶏だ。

きりたんぽは秋田県産の米を使い、半分すりつぶしたご飯を秋田杉の串に刺して炭火で1本1本丁寧に焼いている。スープも自家製である。家庭の味を再現するためには市販スープでは不可能と考え、地鶏のガラを使った濃厚な味わいを活かした塩分控えめな特製スープを生みだした。鶏ガラから抽出される旨味成分の濃度は、高く評価されている。


(※)【秋田県による比内地鶏ブランド認定基準】

  1. 雄の雄の比内鶏と雌のロード種の交配で作出された一代交雑種であること。
  2. 28日齢以降で平飼いか放し飼いで飼育されていること。
  3. 28日齢以降で1平方メートル5羽以下で飼育されていること。
  4. 雌はふ化日から150日間以上、雄は100日間以上飼育されていること。

なんと、鶏の加工も施設内で実施する!!

驚くべきは、鶏肉の加工作業である。なんと飼育だけでなく、肉の解体・加工作業まですべて施設内で、職員とともに利用者たちがおこなっているのだ。このような施設は全国的にも希有な存在だろう。鶏肉の解体を実施するためには「食鳥処理衛生管理者」という国家資格が必要である。現在では原則3年に1度しか講習が実施されない希少な資格だ。たとえ専門資格を持っている職員がいたとしても、その人が突然異動したり退職してしまえば施設での食肉解体処理は不可能になってしまう。多くの施設で、この作業を業者委託しているのは当然ともいえる。しかし大館圏域ふくし会では、法人内に「食鳥処理衛生管理者」を持つ職員を、なんと10名も抱えているのだという。

「職員の異動は法人内では日常茶飯事ですからね。いつ誰が抜けても、きりたんぽ製造事業に支障ないようにしておかなくてはいけません。そのため法人で積極的に資格所得者を増やすように取り組んできました。さすがに女性職員は尻込みするみたいですけど(笑)、男性なら比較的喜んでとっていただけますよ」

鶏肉の解体作業の詳細というのは、おおむね次のような工程である。

  1. 鶏の頭をおとして、血抜き。
  2. ぬるま湯につけて、毛を抜きやすくする。
  3. 湯から鶏を取り出し、全体的に脱毛。
  4. 冷却して肉を捌きやすくする。
  5. モモやモツなど、各部位に肉を解体。
  6. 解体した各部位を、冷蔵or冷凍保存。

こうした一連の流れを、施設内の作業場で一気に実施していく。広大な飼育場で育てられた比内地鶏が、新鮮なままパックされていくわけだから美味しいはずである。言ってみれば、釣れたて新鮮な船上で血抜き処理され、一気に瞬間冷凍された本マグロのようなものだろう。比内地鶏はきりたんぽセットとしてはもちろんのこと、肉だけでもモツ・ガラとともにセット販売されている。

年末は、お歳暮用に注文が全国から殺到!

当然ながら、これだけの商品が売れないはずがない。「白沢通園センター」のきりたんぽセットは、1990年頃の発売から(当時は、「矢立育成園」の商品として発売)約20年。大々的な宣伝はしてこなかったにもかかわらず、口コミでその味の良さが広まり、現在では全国から数千名の固定客が付くようになった。年末のお歳暮シーズンにもなると、施設の電話が鳴り止まない。たった3名だという担当職員は、製造に加えてこうした事務作業に追われることになる。

「おかげさまで、毎年作ったぶんだけすべて売れるという状況です。とても好評なので量産化を検討したこともあるのですが、機械化するとどうしても手作りの味が失われてしまいます。丹念に作ったお袋の味が私たちの最大の特色なのですから、大量生産により味が落ちてしまっては意味がありません。本当に美味しいきりたんぽを求めている人だけに、早い者勝ちでお届けする。そんな考え方で製品を作っています」と、藤田施設長。

まるで頑固職人が生み出す限定商品のようなこのきりたんぽセット。新米が採れる10月以降から本格的な製造がスタートするそうだ。セットには、比内地鶏と比内地鶏スープ、きりたんぽ、糸こんにゃく、ネギ、セリ、マイタケ、ごぼうと、鍋に必要な食材はすべて揃っている。あとは土鍋だけを用意すれば、自宅で本場・秋田の味を堪能できるというわけだ。3人前5,500円(送料・消費税込)と、全ての工程を手作業で製造しているきりたんぽセットとしてはリーズナブルな値段も魅力だろう。注文は施設に直接電話&FAXのみで受け付けている。ぜひ今年の冬は、本格的なきりたんぽを試してみてはいかがだろう。

きりたんぽに次ぐヒット商品として期待されている豆腐製品

きりたんぽセット販売事業はこのように非常に評価されている反面、それだけでは限界もある。もともと「矢立育成園」と統合する前の「白沢通園センター」の事業の中心は、絨毯や布おむつのクリーニングや、医療部品の加工作業であった。とくに1999年から始まったダイヤライザーと呼ばれる人工透析製造部品の洗浄作業は、既存の洗浄設備を活用した機械化が功を奏し、利用者工賃の大幅アップを実現させている。

しかし近年の経済不況のあおりと協力事業所の事情等により、どちらの仕事も急激に受注が激減してしまい、事業所として新たな事業展開が求められるようになってきたのである。

その結果考えられたのが、豆腐を中心とする食品製造事業であるという。つまり下請け作業から、自主製品製造販売へと事業の中心をシフトすることになった。きりたんぽに次ぐヒット商品をめざして、2005年から豆腐づくりを本格的にスタートさせている。

製品の特徴は、豆乳の濃度にこだわったという味の濃さである。もちろん原材料は国産(東北産)丸大豆を使い、地産地消を心がけた。ほとんど機械化せずに丁寧に作り上げられる豆腐(木綿豆腐・絹豆腐)は、一丁150円という価格ながら「生で食べるのに最適の味」と地域ではすっかり評判になっているらしい。基本的には会員販売方式で、大館圏域を6地区に分割して、週6日軽ワゴン車で配達する。その他施設に隣接する「ふれあいの店」や、地元の大手ショッピングセンター「いとく」などでも販売されている。

藤田施設長は、施設の将来ビジョンについて次のように話してくれた。

「ピーク時には秋田県でトップ水準であった利用者工賃も、現在では大幅ダウンを余儀なくされています。なんとか早いうちに、元の水準までもどすように努力していきたいですね。そのためにも食品事業の展開は、非常に重要になってきます。とくに期待しているのが、豆腐事業。焙煎おからやこんにゃくなどの新アイテムが加わり、着実に売上を伸ばしてくれると思います」

食品以外の分野でも、小型電子部品の解体作業受託などの新事業への取り組みがスタートした。行政が主導する「こでん回収プロジェクト」の一端を担う作業であり、今後の発展が期待されている。秋田名物のきりたんぽを製造販売する施設として全国的にも有名な「白沢通園センター」。昨年の4月からスタートしたばかりの新体系への移行をきっかけにして、事業所としての新しい姿をこれから見せてくれることだろう。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人大館圏域ふくし会・
白沢通園センター(秋田県大館市)
http://www.fukuokf.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2011年11月01日)のものです。予めご了承ください。