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社会福祉法人米寿会(長崎県対馬市)

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米寿会の概要

米寿会は、「あゆみ園」(就労継続支援B型事業)、「杉の木ホーム」(就労継続支援B型事業)、「ワークハウスほのぼの」(就労継続支援B型事業)、「壱岐國の里」(就労継続支援B型事業)等の障害者就労系事業所を運営する社会福祉法人である。また、「ケアホームもみの木」「ケアホーム壱岐」「米寿会居宅介護支援センター」等の障害者事業の他にも、「対馬老人ホーム」「ケアサポートセンターすけさん」「ヘルパーステーションかくさん」「老人デイサービス事業・かざぐるま」等の老人福祉事業、「対馬子ども療育デイサービスセンター」「学童保育けいめい」「美津島町地域子育て支援センター」等の児童福祉事業、さらには「対馬市パークゴルフ場」といった収益事業に至るまで、さまざまな活動を展開している。

法人本部がある対馬は、九州の北方、玄界灘にある長崎県に属する離島である。離島の多い長崎県では最大の島であり、全国でも本州・九州・北海道・四国の主要四島(本土)をのぞくと第6位の広さを持っている。日本海の西の入り口に位置し、地理的には九州よりむしろ朝鮮半島に近いため、大陸との文化的・経済的交流窓口の役割を果たしてきた。

島のほぼ全域でリアス式海岸が発達し、多数の湾が切れ込んで、多島海を形成している。島の面積の約88%を山林で占め、漁業と並んで林業も活発な土地柄だ。こうした地場産業を活かし、白炭製造販売・対馬市指定のゴミ袋製造(あゆみ園)、しめ縄づくり・木工加工や住宅リフォーム(杉の木ホーム)などの作業をおこなっている。

対馬の関係者にとって悲願だった島内の障害者通所施設

米寿会の母体となるのは、上対馬町手をつなぐ親の会が1990年に開設した心身障害者小規模作業所であった。当時、対馬には障害者のための通所施設というのは一つも存在しなかった。島内の障害者が成人して働く場を求める時、遠く離れた本土の入所施設に入るしか選択肢は残されていなかったのである。米田征四郎理事長(70歳)は、当時のことを次のように語っている。

「私の弟が障害者で、本土の入所施設にお世話になっていました。盆・正月になると自宅に嬉しそうな顔で帰ってくるのですが、休みが終わるとまた施設に戻らなければなりません。その時の弟の寂しそうな顔は、今でも忘れられませんね。自宅で生活がしたいという心からの願い。その時の弟の心境を察しながらも、自分の力ではどうしようもできないもどかしさ。いつもそんな切ない思いで弟が施設に戻るのを見送っていました」

そんな米田氏の弟への愛情や、同じ障害を持つ親たちの願いが結実したのが、小規模作業所の開設なのであった。当時は米田氏も仕事と兼務(上対馬町役所勤務)しながらのスタートであったが、親の会のメンバーからの強い勧めもあって、どうせやるならば全力で取り組もうと一念発起。51歳の時に約27年半勤めた仕事を辞め、退職金等の資財を投じて1993年に社会福祉法人米寿会を設立する。それが法人の原点、第1号施設である「あゆみ園」の誕生だ。対馬に暮らす障害者はこの施設が完成したことにより、家庭に閉じこもることなく「毎日元気に通って働ける職場」という当たり前の労働環境が初めて整うことになったのである。

ちなみに対馬では、驚くことに養護学校さえ1校もない状態※が2011年まで続いていたらしい。人口約34,000人、全国でも有数の大きさを持つこの島の、それが障害者福祉の悲しい現状なのだ。

※2011年に長崎県は、対馬にやっと養護学校高等部の分教室を設置した。しかし、未だ小学部・中学部に至っては設置されていない。同じ長崎県でも、平戸、五島、壱岐等の離島には早くから養護学校分教室が設置されている。対馬に住む障害児の親たちは、一日も早い養護学校の設置を訴え続けている。

対馬の自然資源の有効活用

米田理事長が「あゆみ園」を運営する上で大切にしたのが、地域資源の有効活用と地域産業の活性化だった。対馬は豊かな自然に恵まれていて、とくに島面積の多くを覆っている山には木々が溢れている。こうした地域資源を積極的に取り入れた授産活動をおこない、障害者の仕事を作ると共に地域産業にも貢献したいという夢を持っていた。そこでまず目を付けたのが、「炭」の生産だった。

宅急便の産みの親として知られ、ヤマト財団設立後はスワンベーカリーという福祉事業を立ち上げるなど、障害者福祉の世界でも一躍有名となった故・小倉昌男氏が晩年に夢中になったといわれる「炭」の生産事業。都市部ではパン、田舎では「炭」を焼くことが障害者の仕事になるはずだ──。そんな小倉氏の主張に、米田理事長は強く影響されたのだという。

「もともと農家の長男だったので、多少は炭についての知識がありました。対馬には炭の原料となる天然の樫の木が山のように生えているので、これを使って製品を作りたいと考えたわけです。炭というのは、勉強すればするほど奥が深いのですね。たとえば1500℃の高温で焼き上げた白炭(備長炭)というのは、脱臭・除湿効果があり、人体に有害な電磁波やホルムアルデヒドなどの有害物質をも吸収すると言われています。人体を活性化するマイナスイオンを放出することで、生活環境や体内環境を清浄に保ってくれるのです。燃料としてだけでなく、その存在そのものが快適な生活空間を作り出すという白炭。その魅力に、私はどんどんはまっていきました」

釜の作り方や炭の焼き方は、大分県佐伯市の有限会社寺島林産に学んだ。担当者を数ヶ月も派遣し、まったくのゼロから修行に励んだのである。スタート時は小さな実験窯で始めたこの事業だが、2004年には巨大な三基の炭窯が完成し、月に3トン弱の炭を生産できるまでに成長を遂げている。

生産された白炭は、本土の燃料会社を通じて東京や大阪等、全国の主要都市の業務用燃料として販売されていく。一時期は中国産の安価な炭が出回り、価格競争に巻き込まれて事業的には非常に厳しい状況が続いたが、中国政府が森林資源の保護のために木炭を全面輸出禁止にして以来、国産の炭に対するニーズが高まった。化石燃料の枯渇が叫ばれる現在、炭というのは、地球に優しい燃料としてこれからの時代に再評価されていくに違いない。

「もったいない」の精神で、炭のカケラからも新製品を生み出す

「あゆみ園」で生産される炭は「現在、焼けたものはすべて引取先が決まっています(阿比留主任指導員)」と嬉しい悲鳴をあげるほどに売れるようになっているのだが、アイデアマンの米田理事長は、炭のカケラからも新製品を次々とひねり出してきた。一つが、白炭の持つ優れた消臭能力を活かした「炭ちゃん」と呼ばれる消臭グッズシリーズだ。

三角ボックスの「炭ちゃん」を冷蔵庫に入れれば、消臭だけでなく腐敗ガスを浄化して庫内に保存している野菜などの生鮮品の鮮度が長持ちする。車用の六角ボックスの「炭ちゃん」は、消臭・防湿・防カビ効果でさわやかな運転をサポートしてくれる。家電の上に台形型の「炭ちゃん」をポンと置けば、人体に有害に電磁波・ラドンを吸収し、生活しやすい空間が生まれていく。タンスや押し入れにはロッジボックスの「炭ちゃん」一つで、衣類が長持ち。靴や靴箱には小さな袋入りの「においに炭ちゃん」が、靴独特の嫌な臭いや湿り気を防いでくれるというわけだ。

「白炭の効能を考えると、燃料だけに使うにはもったいないと思います。燃料としては商品になりにくい炭の欠片だって、消臭・脱臭剤としては十分すぎるほどの効力を持っています。それらを最大限活用して、ただ置くだけで快適な生活空間を楽しめる炭のパワーをぜひ多くの人に知ってほしいのです。効果が2〜3年も続くので、1個買ってしまったら当分は買い替える必要がありません。商品としての欠点をあえてあげると、そこですかね(笑)

最近では、ご先祖様が眠る墓用の「炭ちゃん」も開発した。骨壺周りに置くだけで除湿効果や消臭効果が期待でき、墓の環境改善につながるスグレモノである。風水的にもエネルギーが高まり、運気が上昇していくという。先祖を大切にしたい人には、最適の商品だろう。

また、冠婚葬祭用のグッズとして「扶桑」という炭&藻塩セットもある。対馬名物のひじきと海水を木質チップ(バイオマスボイラー)で炊きあげて作った「藻塩」と、靴用の「においに炭ちゃん」の3袋セットを一箱にしたものだ。葬儀用の香典返しとして企画したものだが、その狙いは見事に当たった。島内外の葬儀社に数千セットがコンスタントに売れているというのだ。長崎県や福岡県の本土の障害者数施設との営業コラボも始まっており、「非常に売りやすい商品」との評判も高い。今後も日本セルプセンター等を通じて、離島の商品が全国に販売されていくことを期待しているという。

木材バイオチップの活用で、対馬の地域資源が活かされる

「もったいない」といえば、対馬の山を眺めると間伐材が至るところに放置されているのが印象的である。森林の成長過程で密集化する立ち木を間引く行為は、木々の成長と森林保護のためにも必要不可欠な行為ではあるのだが、伐採された木々は放置されたまま朽ち果てていくだけである。細い木々は高い値がつかず、運搬費にもならないため放置しておくほかないためだ。こうした間伐材を見るにつけ、米田理事長は「あまりにもったいない。これをなんとかしたい」とつねづね考えていたという。

そこで考えたのが、間伐材をバイオチップの形に細かく切り刻み、ボイラーの燃料にするという発想であった。このアイデアを具体化するために、米寿会では2006年から対馬市温泉総合リラクゼーション施設「ゆったりランド」の運営を受託している。これは対馬市が市内の豊かな温泉を活用することにより、市民の出会いと交流の場を目指した総合リラクゼーション施設である。温泉・プール・飲食店を兼ね備え、対馬市が18億2,000万円の巨額を投じて建設されたこの施設だったが、実は赤字続きのため約2年で閉鎖を余儀なくされていた。これは当時、新聞やテレビ等のメディアを通じて対馬の中で話題となっている。せっかくの対馬の財産が活かされないことに対し、住民からも再開を望む 6,844名の署名が集まったほどである。

そこで対馬市が再起を民営化に托すことになるのだが、委託先を公募すると手を挙げたのがなんと専門外の米寿会だった。まず第一に「障害者雇用の創出」を掲げ、さらに「バイオマスエネルギーの採用による大幅な燃料費の削減」という具体的な経営計画まで作成し、「ゆったりランド」の運営に乗り出したのである。

「大幅な赤字施設でしたから、決断するまでには相当の準備と計画を練りました。しかし地域資源の活用というアイデアを実現し、サービス業にも利用者の雇用の場を広げられるかもしれないというチャンスは滅多にありません。ここでチャレンジするしかないと、思い切って決断したのです」と、米田理事長。

バイオマスチップの採用による燃料費の削減効果は絶大であった。なにしろそれまで温泉を温めていた化石燃料のボイラーから、対馬の間伐材を粉砕したバイオマスチップボイラーに一挙に切り替えたのである。年間で数千万円かかっていた光熱費が、これによって1/3に激減した。その他、さまざまな経費を削減することによって、事業は目を見張るほどに回復に向かう。

燃料費のコスト削減さえ実現すれば、対馬には韓国等からの団体観光客が多く渡航してくる。温泉は、彼らにとって格好の観光スポットだ。事業受託後わずかに5年で単年度黒字経営の施設に蘇らせ、改めてバイオマスチップを採用することによる事業採算性を実証してみせたのである。現在では、農林産業省が推奨する「バイオマス利用の成功事例」としてNHKで放映されるなど、全国から視察が絶えない注目施設となっている。

このバイオマスチップ製造を担うために米田理事長が設立したのが、対馬資源開発協業体という組織だった。代表者は理事長の妻である米田榮子氏が努め、木材チップの製造の他にも、間伐材の一次加工と二次加工で木材の付加価値を高め、対馬ひのきと杉の有効活用(板材生成・木工製品加工)等をおこなっている。

地域の活性化こそが、障害者の雇用を安定させる

しかし米寿会では、受託契約の期間5年間を終え、「ゆったりランド」の事業委託から手を引いた。その理由は、次のようなものであった。

「『ゆったりランド』の運営に乗り出した最大のテーマは障害者雇用の創出でしたが、思ったほど雇用に結びつけられなかったのが撤退した理由ですね。今後もこの事業で、彼らの雇用を増やせるという見込みも立ちませんでしたし。バイオマスチップボイラーの採用によって基本的に経営は安定しましたから、一つの役割を終えたと考えました。それよりも対馬の木材資源をもう一度見直し、これに付加価値を付けていく事業(対馬資源開発)の方に力を注ぐことで、もっと多くの障害者たちに高い賃金を払える職場を作りたいと思ったのです。」

対馬資源開発協業体の設立目的として、「地域資源の有効活用」「地域産業の活性化」「障害を克服する授産事業の活性化」「雇用促進と環境保全に寄与する」という4つの目的が掲げられている。米田理事長の考え方は、つねに一貫している。運営方針の中心にあるのは、対馬という地域全体の活性化である。そのためには、なによりも一次産業を活性化することだと断言する。一次産業である木材生産者が潤えば、二次産業の木材加工業者も潤う。そして対馬全体の経済が活発になっていけば、障害者の雇用も安定していくはずである……。現在、理事長が対馬資源開発協業体の運営に勢力を注ぎ込んでいるのはそのためだ。経営が安定したところで障害者の雇用を徐々に深めていき、将来的には施設との一体化も視野に入れている。

「対馬では、施設を出て企業に就職できるチャンスなどほとんどありません。いつまでも雇用の場ができるのを待つのではなく、自分たちの力で障害者が働ける職場を作るべきなのです。現在、法人では障害のある方を職員として5名採用して、各職場で元気に働いています。また対馬資源開発協業体でも『杉の木ホーム』から5〜6名(1日平均)が出向しています。これからも地域資源が活かされバイオマスチップ製造事業を拡大していけば、さらに多くの障害者が働く場を作り出せることでしょう。対馬に眠る財産を無駄にせず、有効活用するという大切な事業です。もっと積極的に島外にも出荷できるようにしていきたいですね。近い将来は、背板の活用で小規模発電をめざしています。自社で活用する電力はすべて、バイオマス発電でまかなえるようにしたいですね」

と、米田理事長。このように長崎の離島で奮闘する理事長の活躍は、対馬の障害者のみならず、対馬全体の人々に希望を与えていくに違いない。長崎の離島で再生可能エネルギーの普及という壮大なテーマに取り組む米寿会。その活動は、まさに時代の最先端をいくものであった。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人米寿会(長崎県対馬市)
http://www9.ocn.ne.jp/~tsushima/

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2013年01月01日)のものです。予めご了承ください。