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NPO法人結の会(愛媛県宇和島市)

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結の会の概要

結の会は、ゆいの里(就労継続支援B型事業)を運営するNPO法人である。始まりは、1996年に隣町(吉田町)で設立されたのぞみ共同作業所(無認可施設)だった。その後2003年に三間町にもこだま共同作業所が立ち上がり、2006年にはNPO法人化。障害者労働センター・結として新たなスタートを切った。2008年にはゆいの里と名称変更し、2013年に吉田町・三間町と2つの地区にあった施設を統合。以後、現在の組織に一本化されている。

作業種目は、よもぎ事業、柑橘事業、農産事業、食品(菓子類)加工事業の4本の柱から成り立つ。とくにヨモギを使った入浴パックは看板商品で、インターネット通販を通じて全国からの引き合いがある。

栽培から手がけるよもぎ事業

ゆいの里のよもぎ事業の最大の特色は、自分たちでヨモギそのものを育てているところだろう。管理者の小清水澄代さん(56歳)は、次のように説明する。

「ヨモギというのは日本中至るところに自生している植物なので、畑でわざわざ大量に栽培しているケースは珍しいと思います。しかも私たちのヨモギは、除草剤などの農薬は一切使用せず無農薬に近い栽培法。14か所に分散する畑で育て、収穫から加工まで一貫して自分たちの施設内で行っています」

畑は、近隣農家から借り受けている。三間町は、「みま米」というブランド米が収穫できる米どころでもある。しかし高齢化が進み、後継ぎも見つからないことから、耕作放棄地が増えている。ゆいの里が畑を整備し、まわりの雑草も取ってくれるなら無償で貸してもよいという農家が、最近は増えているのだ。そのため次々と畑を借り受けた結果、複数のヨモギ畑が近隣に誕生することになった。

現在、これらの畑から約5トンものヨモギが収穫されるという。5トンという数字は、あくまで収穫したヨモギを短くカットし、不純物をとって乾燥した状態の数量だ。収穫した時にはどれくらいの重さなのか、小清水さんですら見当も付かないほどだという。乾燥したヨモギを、ビニール袋に入れて倉庫で保存する。それを1年間かけて、入浴パックや乾燥よもぎなどの商品に加工していくのである。

よもぎからは、入浴パックやよもぎ餅など

ゆいの里のヨモギは国産栽培ということもあり、年々需要が高まっているのだと小清水さんは嬉しそうに語る。

「ヨモギの使い方としては、3種類あります。1つが、粉砕してパック詰めし、入浴パックとして販売する方法。最近では高級エステサロンから、粉砕したヨモギや乾燥よもぎをわけてほしいという依頼も増えてきました。2つ目が、収穫したヨモギを加工しないで販売する方法。医薬品メーカーが乾燥ヨモギ(漢方薬の原料)として注文してくださいます。3つ目は、お菓子の原料となる食用ヨモギ。よもぎ餅などの原料にするために、自社だけで使っています」

主力商品でもある「よもぎ湯入浴パック」は、当初は電話注文や生協、道の駅みま等での販売が中心だったのだが、AmazonやYahoo!ショッピングなどのインターネット通販に出店してみると、大ヒット。今ではAmazonだけで、年間約350万円も売り上げるまでになった。ネットを通じてほとんど毎日注文が入るほどで、海外からの問合せが来たこともあるという。

「『当初はヨモギなんか栽培して、何するの?』みたいにまわりの農家からは不思議がられましたけどね(笑)。今では県内外の福祉事業所や農家さんなども視察に来られることがあります。これだけ注目されているのは、やっぱり国産の安心安全なヨモギだからこそ。香りの良さは、どこに出しても恥ずかしくありません。畑に入って雑草取りを何度もやらないといけないなど、ヨモギ栽培はとにかく手間がかかる仕事です。でも利用者さんは、一生懸命畑で汗を流してくれています」

ゆいの里ではヨモギの他にも、サツマイモや米などを栽培して和菓子(よもぎ餅、桜餅、柏餅、スイートポテト等)の原材料を確保している。自給自足の商品づくりへのこだわりが自慢の商品群だ。近隣にある道の駅みま、きさいや広場で販売されていて、固定ファンが付いている。

特産みかんを使たゼリー販売も絶好調

もう一つの主力製品である柑橘ゼリーの販売も好調だという。施設がある宇和島市といえば、みかんの産地として全国的にも有名な土地である。とくに吉田町は、みかん農園が非常に多い。そこで、みかん、ネーブル、ポンカン、不知火、河内晩柑などの柑橘類を農家から仕入れ、絞った果汁をゼリーに加工しているのだ。

「ビン詰めのジュースも売ってはいるのですが、なにしろ柑橘類の産地のため、ジュース市場は飽和状態。道の駅ではライバルが多すぎて勝負になりません。そこでチューブに入れた流行のスタイルのゼリー(6種類)にしてみたら、これがとても当たりました。お土産用にみかんネットに入れて3個セットにしたものが、道の駅では大人気です」と、小清水さん。

豊かな香りと濃厚な甘み、それでいて後味さっぱりのゼリーは、どれも美味しい宇和島みかんを凝縮したような味わいだ。チューブに入っているため、まるでジュース感覚でチュルチュルと吸い込むことができる。一度食べたら病みつきになるのもうなずける。携帯用の水分補給としても最適だろう。

お歳暮シーズンの年末には、ネット販売などでよもぎ入浴パックを注文してくれた顧客に対して、DMを発送している。よもぎ入浴パックのセット(10袋入り5,400円、15袋入り8,100円)はもちろんのこと、箱入りのみかんやビン入り果汁100%ジュースセット、柑橘ゼリー10個セットなどの購入を呼びかけているのだ。毎年たくさんのリピーターからの反応があるそうで、これだけでも大きな売り上げとなっている。

忍び寄る高齢化。原材料確保が今後の課題

よもぎ入浴パックや果汁ゼリーを中心として、企画した商品が次々とヒットし、ゆいの里の全体売り上げは約3,300万円へと成長した。月額平均工賃は、約26,300円(2018年実績)まで伸びてきた。今後も着実に売り上げを伸ばすためには、何が必要なのだろうか?

「漢方薬の材料として薬品会社に売るヨモギの需要は、まだまだ増えると思います。作れば作るほど買ってくれそうなのですが、問題はこちらの生産力。今ですら14か所に散らばった畑を管理するだけで苦労しているのに、これ以上増やしたら大変なことになってしまいます。需要に追いつくための生産力強化が、今後の大きな課題でしょう」

もちろん、小清水さんも手をこまねいているわけではない。食品加工場は施設の建て替えが進行中とのことで、完成すれば生産力アップのために機械導入も考えている。柑橘ゼリーの製造は、現在はすべて人の手で1つひとつ行っている状態だ。これらを機械化できれば、大幅に作業が効率化することだろう。

問題は、原材料そのものをどうやって確保するかに尽きる。自給自足が基本だから、畑で働ける労働力を増やす必要がある。しかし他の施設と同様、ゆいの里でも利用者たちの高齢化が深刻なテーマなのだ。畑仕事に率先して出かける人たちも、少しずつ減っている。今後は利用者以外の人材(シルバーの活用など)を検討する必要があるかもしれないと、小清水さんの悩みは尽きない。

そうはいっても、小さな共同作業所から出発し、皆で協力して試行錯誤しながら「やりがいのある仕事」「やりがいのある生活」を分かちあってきたのが、ゆいの里の歴史である。今後も一人ひとりができることに一生懸命取り組みながら、みかんの里から全国へとステキな商品を届けてくれるに違いない。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

NPO法人結の会・ゆいの里(愛媛県宇和島市)
https://yuinosato.com
*ホームページにて、各種商品も販売中

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2019年10月01日)のものです。予めご了承ください。