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東京都板橋福祉工場(東京都板橋区)

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東京都板橋福祉工場(東京都板橋区)

東京都板橋福祉工場の概要

社会福祉法人日本キリスト教奉仕団は、神奈川を拠点とするアガペセンターと、東京都を拠点とするアガペ東京センターの二つの組織で構成されている。東京都板橋福祉工場(以下、板橋福祉工場)は、アガペ東京センターが1974年に東京都から運営受託した福祉工場が母体である。公文書等のマイクロフィルム作成業務を主な作業として、当時は年間売上約10億円、50名もの障がい者従業員が働くほどの活気に満ちていた。(デジタル社会の到来によって同作業へのニーズが激減すると売上は下降の一歩を辿り、現在はピーク時の10分の1にまで縮小している)

2012年に東京都から民間委譲された後は、就労継続支援A型事業、就労継続支援B型事業、就労移行支援事業を運営する多機能型福祉事業所として、板橋福祉工場は再出発することになった。2015年には工場の建て替えも完了。これまで中心的に行っていたアーカイビング作業(A型事業:マイクロフィルム作成、デジタル加工)に加えて、パン・焼き菓子の製造、イタリアンレストラン「Monica(モニカ)」運営、植物工場(無農薬葉物野菜の栽培)、受託軽作業(DM発送など)の4つの柱(B型事業)が加わった。現在の板橋福祉工場は、これらB型事業所の活動を中心に展開しているといっていいだろう。

東京都板橋福祉工場(東京都板橋区)
板橋福祉工場第1工場
東京都板橋福祉工場(東京都板橋区)
板橋福祉工場第2工場
東京都板橋福祉工場(東京都板橋区)
イタリアンレストラン「Monica」

無農薬の安全安心な野菜を育てるモニカファーム

まず注目したいのが、LEDライトを使ったクリーンルームで野菜を育てる植物工場モニカファームである。水耕栽培によって、ルッコラ、リーフレタス、スイスチャード、からし水菜、わさび菜、フリルレタス、セルバチコ等の葉物野菜や、イタリアンパセリ、バジル等のハーブ類を育てている。

光合成の主役とされるクロロフィルの吸収波長660nm(ナノメートル)に合わせた4元素系赤色パワーLEDを使用。太陽光で育てるよりも、機能性成分を多く含む野菜が生産できるのだ。気候条件に左右されないのも、路地栽培と異なった植物工場ならではの特色だろう。播種→定植→収穫→袋詰→(定植板)洗浄まで約6〜7週間のサイクルで、利用者たちに定期的な仕事を確保することができる。

LED栽培ユニットは、4段式のものを14台設置。グリーンリーフにすると、最大で月に14,400株が出荷可能であり、都内にある植物工場としては比較的大きな規模だという。野菜の販売先について、毛利龍夫所長(59歳)は次のように説明する。

「当初は設備を導入した業者の紹介で、ネット販売会社から安定した出荷が用意されていました。しかし昨年から先方の都合で契約が打ち切りとなり、今は独自に近隣スーパーなどへの販路拡大に努めています。全出荷量の7割を占めていた取引先がなくなったのは痛手でしたけど、板橋福祉工場の名前が出ない下請けにすぎなかったのも事実です。これからはモニカファームの名前を前面に打ち出したブランド野菜として、積極的に売り込んでいきたいですね」

東京都板橋福祉工場(東京都板橋区)
東京都板橋福祉工場(東京都板橋区)

地域住民に浸透し始めたイタリアンレストラン

第2工場の一角には、イタリアンレストラン「Monica(モニカ)」が併設されている。この店の自慢は、なんといっても隣接する植物工場で収穫された新鮮な(しかも安全安心)サラダ類だ。野菜がたっぷり載ったサラダピザ、バジルの香りが食欲をそそるシーフードバジルピザ、バジルをたっぷり使った冷製ジュノベーゼパスタ(夏季限定)等、野菜やハーブが好きな人にはたまらないメニューが並ぶ。

この他にも、4種のチーズピザ、生ハムコッパ&ガーリックピザや各種パスタ類(ナポリタン、カルボナーラ、カニとトマトのクリームパスタ、ボンゴレ、いかとキノコの和風パスタ)、ワンプレートカレーライス(法人内の別施設・アガペセンターでつくるSaraカレーを使用)等もあり、すべてサラダ&スープ付きのランチで750円(税込)。さらにコーヒー、紅茶が飲み放題のフリードリンクが210円(税込)。ホットドリンクだけでなく、瓶入りのコカコーラやジンジャーエールも自由に飲めるというサービスぶりだ。

「近隣には集合団地や大手企業の工場が建ち並ぶ好立地にあるので、少しずつではありますが常連のお客様が増えてきたようです。サラダに使う野菜が本当に美味しいと、みなさん口々に語ってくださいます。会計時には入口に用意した販売コーナーで、野菜をお買い求めいただく方も多いのですよ」と、サービス管理責任者の米田憲政さん(53歳)

新型コロナウィルス感染拡大の影響により、2020年4月中旬から約1ヶ月間、Monicaは店内飲食営業の自粛を余儀なくされた。この間、テイクアウトに力を入れ、新たに開発したコッペパンシリーズが大ヒットを生んでいる。あんバター、チョコバナナホイップ、カスタードクリーム、フィッシュフライ、焼きそば、タンドリーチキン、しょうが焼き等々、さまざまなアイテムが日替わりで登場するため、毎日でも食べ飽きない。市内の高校へのパンの出張販売ができなくなったマイナス分をコッペパンが穴埋めしてくれたのだと、毛利所長は胸をなで下ろす。今後もテイクアウト商品の開発には力を入れ、コロナ禍での飲食事業の可能性を追求していくという。

東京都板橋福祉工場(東京都板橋区)
東京都板橋福祉工場(東京都板橋区)

DM発送業務の作業改革により工賃も大幅アップ

板橋福祉工場のもう一つの作業の柱が、DM発送代行などの軽作業である。39名のB型利用者中、専属でここに関わっている人たちは過半数を占めている(16名は、植物工場とレストランへシフト勤務)。なかなか上がらない月額平均工賃をせめて全国平均以上に伸ばすためには、軽作業のダイナミックな作業改革が必要だった。そこで2018年度からヤマト福祉財団の工賃向上セミナー「働くちから革新塾(新堂塾)」に軽作業を担当する責任者が参加し、厳しい指導を受けることになった。米田さんは次のように語っている。

「職員全員で新堂塾長の施設(チャレンジャー:DM発送に特化)にも見学に行きました。現場は、稼ぐために生産効率をいかに高めるかといったアイデアに溢れていて、本当に刺激になりました。軽作業の責任者は、現場改革に関する実践レポートを毎月書いて、塾長に報告します。工程分離、治具製作、作業動線の見直しなど、教わったことを次々と現場で取り入れていきました」

結果は目に見える形で現れた。作業効率が飛躍的に改善され、これまでは3日かかっていた作業が、2日で完成するまでに短縮されたのだ。低すぎた受注単価の改善にも取り組み、仕事の取捨選択と、新たな取引先の発掘も行っている。こうした努力は平均工賃にも明確に反映されている。それまで13,000円程度だった月額平均工賃が、2019年は約20,000円に大幅アップ。2020年度は新型コロナウィルス感染の影響を受けているものの、本来であれば25,000円以上を目標とする事業活動が進む予定だった。

もっとも、板橋福祉工場が見据えているのは単に工賃向上だけではない。今後の課題について、毛利所長は次のようにまとめてくれた。

「月額平均工賃をさらに上げるためには、受託作業を効率的にこなすための努力がさらに求められていくと思います。しかし私たちの施設では、さまざまな利用者たちの働くニーズに応えていく必要があるのも事実。軽作業に適した人たちもいるし、植物工場やパン・レストラン業務で能力を発揮する人もいる。全体のバランスを考えながら、一歩ずつ前に進んでいきたいですね」

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

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社会福祉法人日本キリスト教奉仕団
アガペ東京センター・東京都板橋福祉工場(東京都板橋区)
https://jcws.or.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2020年12月01日)のものです。予めご了承ください。