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医療法人久盛(きゅうせい)会(秋田県秋田市)

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久盛会の概要

 久盛会は、クローバー就労継続支援事業所(B型)、指定相談支援事業所クローバー、グループホーム久盛会等の障がい福祉サービスを通じて、主に精神障がい者を対象とした支援事業を展開する医療法人である。母体となるのは、1964年設立の秋田緑ヶ丘病院(当時は秋田神経精神病院)であり、福祉ホーム鶴(1992年)、グループホーム福寿草・かすみ草(1994年・1996年)、援護寮すずらん(1996年)、通所授産施設クローバー(2000年)等を開所することによって、入院者の退院後の生活・就労サポートを続けてきた。障害者総合支援法による新体系導入後の2006年より、現在の形に事業が整備されている。

 唯一の就労系事業所であるクローバー就労継続支援事業所(以下、クローバー)の定員は、40名である(うち、従たる事業所10名含む)。主に精神障がい者を対象としクリーニング、弁当配食、ベーカリー製造販売等の作業を提供する。年間総売上は約6,000万円に及び、月額平均工賃は47,000円(2024年度実績)。病院を母体とするだけに、健康や安全にも気を使いながら堅実な経営努力によって実績を積み重ねている。

法人内施設を有効活用した作業が中心

 クローバーの大きな特色は、法人が運営する秋田緑ヶ丘病院や5棟のグループホームを活かした作業を主力としているところだろう。1つは、クリーニングである。病床数372床の病院だけに、入院者の私物クリーニングだけでも相当な受注量となる。実際、年商は約3,000万円に上り、光熱費・運搬費・機械リース代などの経費を差し引いても、半額以上を工賃に充てることができている。この業務には20名程度の利用者が関わっており、事業所の中心的作業と呼んでも差し支えない。

 5棟のグループホームに朝・夕食弁当を届ける配食サービスも、大きな事業の柱だ。B型事業所の利用者や職員、病院の職員向け昼食弁当(約60食)も請け負っているため、いわば朝・昼・晩、3食分の職員や利用者たちの食事作りを担っていることになる。一日に作る弁当の総数は、約250食。配食弁当部門の年商は、約2,300万円である。

 病院が母体となって運営する事業だけに、健康にはしっかり目を配ったメニューを提供することにもこだわっている。栄養士の資格をもつ職員がしっかりと栄養バランスを考えているのだ。安易に安さや効率性を求めず、心のこもった弁当を提供し続けることが、健康管理には大切であり、ひいてはグループホームの利用者確保にもつながっていく──。その考え方こそが、現在の方針を支えている。

「利用者さんや職員たちも、気を抜くとどうしても食事はカップラーメンばかりになります。その点、食の専門家が管理したメニューなら安心でしょう。そうはいっても魚メニューの日には、どうしても注文が減ったり、食べ残しがあったりするのも事実なんですけどね」と、管理者の山王丸(さんのうまる)知也さんは笑う。

ロンドンバスが目印のベーカリー

 クローバー就労継続支援事業所のもう一つの作業の柱が、ロンドンバスベーカリーである。年間売上は約600万円と前出の2つの作業には及ばないものの、地域住民に対して事業所の存在を知ってもらう「広告塔」としての役割も担っている。そのシンボルとも言えるのが、敷地に配置した赤いロンドンバスだ。ベーカリー開業前の2002年に、実際にロンドンの街を走行していたバスを購入した。バスの車内を開放し、来店客が購入した商品をその場で楽しめるフリースペースとしたのだ。

「どうしてこんな派手なバスを設置したのかとよく聞かれます(笑)。でも町には同業の飲食店が溢れています。何か大きな特徴を1つ持たないと埋もれてしまうと、当時の管理者が考えたのでしょう。赤い車体がとても目立つので、すっかり地域住民にも浸透しました。初めて事業所を訪れる方に場所を説明する格好のランドマークにもなっています」と山王丸さん。

 ベーカリーショップ本体の建物も素晴らしい。ブリティッシュグリーンを基調とした格式高いイギリス風のクラシカルなデザインとなっていて、ロンドンバスとの相性もバッチリ。この2つの組み合わせが、ひと目で印象に残る存在感を演出しているのだ。店内に入ると、ガラスの冷蔵ショーケースがあり、そこには高級感あふれるサンドイッチが数種類陳列されている。山王丸さんは語る。

「サンドイッチをショーケースで販売しているのは、たっぷり挟んだ生野菜を新鮮に保ちたいからです。せっかく素材にこだわってつくっているので、お客さんにはベストの状態でお渡ししたいですから」

 ベーカリーで作っている生地は、基本的には食パン、コッペパン、ハンバーガーバンズの3種類だけだ。しかしその中に挟む具材を変えることで、何通りもの商品を生み出している。

 一番人気は、手づくりのローストビーフをたっぷり挟んだローストビーフコッペである。ボリューム感あふれるこの商品の価格は、550円(税別)、注文があってから一つひとつ作るというこだわりもあり、幅広い客層からの支持を集めている。

季節ごとの商品開発や、SNSを活用した広報展開

 ベーカリーの定休日は、毎週月曜日と火曜日。平日はテイクアウトが主体だが、週末になるとロンドンバス内は満席となることも多い。親子連れが一緒に楽しそうに食事していたり、旅行途中のカップルが記念撮影も兼ねて立ち寄ってくれたりと、来店の風景にも広がりが見られる。

「InstagramやFacebookで店舗情報を定期的に発信しており、その成果が少しずつ表れているのかもしれません。更新は職員が担当していますが、立ち上げの際には、SNSに詳しい利用者からもアドバイスをもらいました」(山王丸さん)

 バレンタインには各種チョコパン(チョコナッツのクッペ、チョコタマゴ蒸しパン、チョコちぎり)、ハロウィンにはハロウィンバーガー、クリスマスにはシュトーレンやピザ、秋には各種キノコパン、夏には3種のカレーパンなどを売り出すなど、店内は四季の彩りにあふれている。世界のパンフェアというユニークな企画もあった。「普段作っているアイテムを国別に振り分け、POPに国旗を描いただけ」と謙遜するが、こういうちょっとしたアイデアが店内を活性化させる上で何よりも重要なのだ。さらにそれをSNSで発信していくから、リピーターの獲得にもつながっている。リピーターの獲得については、ポイントカードを発行して割引システムの導入(20ポイントで1,000円割引)を取り入れた。Instagramでは時限的な企画として、見てくれた方には、食パン購入時にポイント5倍、フォローしてくれた方にはもれなく食パン2枚サービス…という特典も用意し適時工夫している。

 店舗外での販売にも力を入れている。地元企業への出張販売(月2回)、地元の著名なホットドッグ店からの定期的なコッペパンの受注(夏場には週200本に達することもある)、Bリーグのバスケットボールチームとのコラボによる公式パンの発売、さらには秋田緑ヶ丘病院への出張販売(週2回)など、多彩な取り組みを展開している。グループホームの配食弁当についても、週初めの朝食にはパンを採用してもらうようにした。
 こうした努力が実を結び、売上は着実に伸びているものの、事業所全体に占める売上比率は、まだ低いのが現状だ。しかし今後の事業展開を考えたとき、ベーカリー部門は重要なカギを握っていくのかもしれない。なぜなら、ベーカリーは唯一「一般顧客」を対象とした事業だからである。

「私たちの特色は、法人が運営する事業所の作業システムと組み合わせることで、安定的な収益を確保してきた点にあります。しかし、人口減少に歯止めがかからない秋田県において、今後も一定数の入院者や利用者の確保ができるのか、不安が残ります。そのためにも、今のうちから対策を考えていかなければなりません。あくまで課題であって、明確な解決策が見えているわけではありませんが……」と山王丸さんは語る。

 堅実な経営手法によって、これまで着実に成長を続けてきたクローバー。一方で、ロンドンバスや英国風クラシカルデザインの店舗づくりといった広報戦略は、全国の就労系事業所が手がけるベーカリー事業と比べても、ひときわ目を引く存在だ。ぜひベーカリー部門でも大きなヒットを生み出し、事業の柱の一つへと成長していくことを期待したい。

(写真提供:医療法人久盛会、文:戸原一男/Kプランニング

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※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2026年02月01日)のものです。予めご了承ください。