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特定非営利活動法人自立支援センターむく(東京都江戸川区)

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特定非営利活動法人自立支援センターむく(東京都江戸川区)

むくの概要

 自立支援センターむくは、PC工房(就労継続支援B型事業)、ジョブアンティ(就労継続支援B型事業)、アンティ(生活介護事業・地域活動支援センターⅡ型)、小松川支援センター(生活介護事業・地域活動支援センターⅡ型)、グループホームむく、すみだ障害者就労支援総合センター(ゆめたまご:就労移行支援事業・就労定着事業)(あったまろん:就労生活支援)、江戸川区立障害者就労支援センター(区市町村障害者就労支援事業・就労移行支援事業・就労定着事業・指定特定相談支援事業・ネットワーク促進事業)等、さまざまな障がい者支援事業を展開するNPO法人である。

 法人の原点となるのは、2000年から取り組んでいた在宅障害者へのパソコン指導ボランティア活動だった。この活動が市川市、江戸川区と広がっていくにつれ、2003年にはNPO法人化。障がいのある人への居宅介護事業をスタートした。そして2006年にはパンの製造販売やパソコンを使った創作活動等を行う小松川支援センター、2010年にパソコンリサイクルを作業の柱とする就労継続支援事業所、PC工房を開所したのである。

特定非営利活動法人自立支援センターむく(東京都江戸川区)
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パソコンのリサイクル販売という新しい作業科目

 PC工房の事業システムは、とてもユニークだ。東京都内を中心にさまざまな企業、団体、個人から役目を終えたパソコンや情報機器をご寄贈にて回収。セキュリティ管理のフロアーにてデータ消去、その後分解や整備・修理・などを経て販売することにより利益を生み出す仕組み。企業や学校、病院、官公庁では一定のサイクルでパソコンの入れ替えが行われるため、一度に100台以上の依頼も少なくない。

「持ち込みや宅配(送料は顧客負担)でしたら、引き取りは台から無料でお受けしています。10台以上なら都内近郊は、こちらから引き取りに伺う事も可能で、もちろん寄贈いただいたパソコン内のデータは完全に消去(米国国家安全保障局準拠NSA方式または、磁気破壊後に物理破壊)、料金は発生せず消去証明書を発行しますから、機密情報を扱う企業・団体であっても安心して任せてもらえます(ディスク等の物理的破壊を希望される方は破壊後の写真、ソフトウェア消去の場合データログの提出、消去・破壊・証明書・写真一連の作業に料金の発生は全くありません)」

 顧客にとってはパソコン処分費、消去証明書発行費用もなく情報漏洩も心配ない。その上、障がいのある人たちの工賃アップに寄与できる、情報保護と処分費用削減、CSRを兼ね備えた社会貢献活動となる。

「集まって来るパソコンはノートPCからラックマウントサーバーまで様々です。再生可能なものは整備や修理しリユース販売します。ヤフオク!で販売や福祉施設等での再活用などを行っています。リファイニングされたパソコンは、まだまだ十分に使用が可能です」と、職員の鈴木さん。ヤフオク!だけでも、これまで2,500以上のパソコンを販売してきた。

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中古パソコンを分解し、資源リサイクルにも寄与

 ご寄贈品の中には、不動品や修理不可、現行OSを動かすには性能不足となるパソコンも少なくない、その場合は施設内にて、鉄、銅、アルミ、樹脂、電子部品、基板など細かく分解分別、廃棄ではなく、マテリアル商品として出荷も行っている。

 こうした作業は、パソコン整備分解に所属する約20名の利用者たちによって行われており、ドライバーでパーツを1つずつ分解するという細かな作業だが、もともと自宅でパソコンを使うことが得意だった利用者も多いため、手慣れているようだ。分解手順がわからず困っている仲間がいると、利用者間でやり方を教え合うという姿も見られるようになった。

「PC工房に通所したての頃は、挨拶をしたり、敬語を使うことも苦手だった利用者さんがチーム作業を行うことでどんどん成長していきます。今では会話が増え、周りで困っている人がいると、進んでアドバイスしてくれます。作業を通じて自信を深めたのでしょう。こういう姿を見ると、本当に頼もしく思います」と、職員の髙野さんは嬉しそうだ。

 PC工房の生産活動の年間売上は、約1,300万円。そのうち、約70%がパソコン販売やマテリアルリサイクルによる販売だという。また、JICA(独立行政法人国際協力機構)より、ウクライナでの戦争により学校が破壊され通学が困難となった子どもたちへのオンライン学習用中古パソコン300台のリファイニング作業(動作確認、セットアップ、クリーニング作業)も請け負っている。

特定非営利活動法人自立支援センターむく(東京都江戸川区)
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パワーストーンアクセサリーの製造も行う

 PC工房のもう一つの作業の柱が、パワーストーンアクセサリーの製作販売だ。一見、パソコンとは相容れないように思えるこの作業を取り入れた理由について、鈴木さんは次のように説明する。

「パソコン作業に興味を示すのは、男性が多いです。女性の方でも喜んでもらえる仕事として、アクセサリーの製造を選びました。パソコン基板には、金、銅、水晶などのレアメタルが使われているわけですから、クリスタルなどの鉱物ともつながりはあるわけです。また、パワーストーンの持つ力が、少しでも利用者さんの心のプラスになればと願って」と、職員の鈴木さんは笑う。

 アクセサリー部門では、パワーストーン(天然石)とパーツを組み合わせ、プレスレット、ネックレス、ピアス(イヤリング)、ストラップなどの装飾品を作り上げていく。完成したアクセサリーは、1階にある店舗(ぴーしー工房Shop)で販売される。大きな曲面ガラスの窓から外光が差す、明るくてお洒落な空間だ。

「店舗の他、江戸川区就労支援ネットワークが毎月開催しているミラクルマルシェというイベントでもアクセサリーを販売しています。子どもでも手軽に買えるので、500円くらいのストラップがとても人気なんですよ」と、職員の木村さん。

 利用者にとって、自分の作った製品が実際に店頭に置かれ、それをお客さんが購入する姿を目の当たりにすると、自然と自己肯定感も達成されていく。アクセサリーという商品が仲介となって、多くの人たちとコミュニケーションできる力が育っていくのだ。

職員の木村さんは、「今後はもうワンステップ進んで、アクセサリーのワークショップも行ってみたいですね」と、意欲を語る。現在はミラクルマルシェなどで職員が中心になって行っているワークショップを、ぴーしー工房Shop内で地域の子どもたちを対象として実施できれば、利用者のさらなる自信につながることだろう。

 法人の運営理念には、「他機関・多機関との連携」があげられている。企業・団体からのパソコン情報機器寄贈を受けることによって事業が広がり、企業側も機器の処理、データ消去証明をPC工房に託している。この繋がりが企業と福祉の連携広めてWinWinの関係となっている。パソコンリサイクルというのは、障がい者の就労事業所としては非常に珍しい事業スタイルだが、考えてみると「福祉支援」だからこそ企業も応援しやすく、「コストのかからない社会貢献活動」としてますます広まっていく可能性がある。現在の月額平均工賃は、2万円を超える。素晴らしい事業アイデアを組み立て、利用者の高工賃を目指すPC工房のスタッフたちに、限りない拍手を送りたい。

特定非営利活動法人自立支援センターむく(東京都江戸川区)
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(写真提供:NPO法人むく、写真:戸原一男/Kプランニング

【NPO法人自立支援センターむく】
https://muku-wellbeing.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2025年07月01日)のものです。予めご了承ください。