Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人ななえの里(東京都国分寺市)
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ななえの里の概要
ななえの里は、ともしび工房(就労継続支援B型事業)を運営する社会福祉法人である。その歴史は1980年代へと遡る。無認可作業所として地域住民から集めた古着等のバザーを開催したり、クッキーの製造販売を続けていたのが始まりだった。当時、国分寺市には障がいのある人が働ける認可施設がほとんどなかったこともあり、行政の全面的なバックアップを受け、1991年に身体障害者通所授産施設(当時)ともしび工房が設立されることになった(2010年に就労継続支援B型事業所に移行)。
事業科目は、バザー、製菓・製パン、印刷、木工作業、雑貨づくり、内職、清掃など多岐にわたっている。2009年より事業所内に売店「Happy Smile」をオープン。リサイクル品だけでなく、パン・クッキー、木工グッズや雑貨類等の自主製品を、地域の方にいつでも買ってもらえる体制を整えた。
作業所時代から数えると40年以上の歴史があるため、国分寺市内においては「ともしび工房」の名前はすっかり定着している。お客さんも利用者も、みんなが幸せで笑顔の絶えないお店にするという開店時の夢は、すっかり現実のものとなった。それでは、ともしび工房を支える現在の主力事業について、具体的に紹介していこう。

元パティシエの職員が監修するクッキー事業
まず最初は、製菓・製パンである。新体系に事業移行した時に溶岩窯を導入し、本格的な製パン事業に取り組むようになった。各種惣菜パン、菓子パン、食パンなど多様なパンを作り、市役所駐車場や市民スポーツセンター等、さまざまな拠点に毎日出向いて販売している(月曜日を除く)。一番人気は、手づくりのカスタードクリームをたっぷり盛り込んだクリームパンだという。
クッキーの製品レベルも、非常に高い。昔、都内某ホテルの製菓部門を取り仕切っていたという元パティシエがスタッフにいるため、その監修のもとで製品開発が行われているのだ。美味しいのはもちろんのこと、見た目もステキな製品が続々と誕生している。
「いろんな商品があるのですが、とくに目立つのが季節ごとのテーマを可愛らしくデコレーションしたサブレ類でしょう。現在はちょうど、クリスマス向けお菓子を製造する真っ最中で、現場は活気にあふれています。秋から春にかけてのイベントシーズンは、製菓部門の稼ぎ時です。ハロウィンに配布するサブレを商工会から大量に買っていただいたり、地域の大学からは学校説明会に配るお土産として2,500円〜3,000円程度のお菓子の詰め合わせセットのご注文があります」と、管理者の八橋宏さんは語る。
クリスマス限定で販売されるという「お菓子のおうちセット」(1セット税込2,700円)は、14〜15種類のサブレパーツを組み立てると、可愛い家が完成するというユニークな製品だ。クリスマスの夜に、子どもたちがお母さんと一緒に楽しみながら組み立てる姿を想像してしまう。独自のアレンジを加えて飾り付けを考えれば、さらに魅力的なお菓子のおうちが完成するだろう。「作る楽しみと、食べる喜び」──この2つを兼ね備えた「お菓子のおうちセット」は大人気であり、毎年50〜60セットも売れるヒット商品となっている。
工賃向上の切り札として、印刷事業を拡充
もう一つの大きな柱となっているのが、印刷事業である。優先調達推進法の施行以来、福祉課が積極的に国分寺市庁舎内に障がい者事業所への発注を呼びかけていることもあり、近年はとくに売上が伸びているという。A3ノビ対応カラーオンデマンド印刷機に加えて、A全ポスターを1枚から出力できる大型インクジェットプリンターを導入したのが成功し、行政や地域の団体・企業からとても重宝がられているのである。
「もう一つ市役所向けに、私が考えた戦略があります。それは、職員向けの名刺受注を10枚単位から承っていることです。国分寺市では、すべての職員が自分の名刺を(自己負担で)作る決まりになっています。私はそこに目を付け、低部数の名刺を積極的にお引き受けするという作戦を立てました。いくつかのデザインパターンを用意し、市役所内の200人くらいから、注文をいただいています。私たちは国分寺市とイメージキャラクター使用許可契約を結んでいるので、『ぶんじほたるホッチ』のイラストを使った名刺を作成できることも大きいですね」
その効果は絶大だった。名刺の発注を通じ、市役所のあらゆる部署の担当者とつながることができるようになったのだ。人事異動で印刷物の発注担当になった場合には「名刺でとてもお世話になった」と、ともしび工房を指名してくれる機会も増えている。「優先調達推進法を積極的に活用しましょう」という障害福祉課からの呼びかけが徹底されているからこそ、各部署からの発注が増えた。その結果、ともしび工房の印刷事業は700万円(2022年)から900万円(2023年)へと大きく売上を伸ばし、今や1,000万円を超える勢いだ。
「優先調達推進法によって受注が期待できる仕事として、他にも清掃作業や敷地の雑草とりなどがありますが、身体障がい者が中心の私たちにはあまり得意とは言えません。事業所の近くの庁舎やトイレ清掃などを請け負うだけに留めています。それよりも印刷事業に注力し、売上拡大を目指していく考え方です」と、八橋さん。行政とのつながりが強いという「利点」を活かした営業活動を、これからも次々に仕掛けていくつもりだ。
地域ネットワークを活かし、さらに工賃向上をめざす
ともしび工房がもう一つ大きなテーマと考えているのが、地域ネットワークの拡充である。「国分寺市障害者施設お仕事ネットワーク(以下、ネットワーク)」という団体を組織し、八橋さんが代表となって加盟10法人への共同受注活動を展開しているのだ。国分寺市市役所庁舎や市内公園(トイレ含む)すべての定期清掃、国分寺市緑化推進事業(花壇整備及び維持管理)、企業からの下請け作業等の仕事は、ネットワークを通じて受注し、加盟法人へと振り分けられている。
ネットワークに対して、学習雑誌の付録教材の組み立て・梱包という大きな仕事の打診が来たことがある。しかしその条件は「1回の発注につき、事業所側で教材が入った大量の段ボール箱(パレット10枚以上)を管理できること」だった。それだけの段ボールを受け渡しするには、巨大な保管場所が必要だ。そこで八橋さんは、付き合いのあったイベント会社と交渉。倉庫とフォークリフトを安価に借り受けることに成功し、定期的に発注される大ロットの仕事をみごとに受注している。
「これからの時代、自分たちの事業所だけで営業活動するのには限界があります。やはり地域の仲間と手を組んで、共同受注窓口を積極的に展開していくべきでしょう。優先調達推進法を活かした行政へのアプローチも、事業所単独よりもネットワークとして営業活動した方が効果的ですから」と、八橋さん。
その視線の先にあるのは、より高い工賃を利用者に支給するための体制づくりである。ともしび工房の現在の月額平均工賃は、約4万円(夏・冬・期末賞与含む)。全国の平均値を大幅に上回っているものの、まだまだ十分とは言いがたいと考えている。少しでも高い工賃を実現するために、何をなすべきなのか。淡々とした語り口の中も、確固たる事業戦略と行動力が見え隠れする。そんな八橋さんの強いリーダーシップが、ともしび工房の躍進を支えているのだろう。


(写真提供:社会福祉法人ななえの里、取材:戸原一男/Kプランニング)
【社会福祉法人ななえの里・ともしび工房】
http://www.nanaenosato.or.jp
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2025年02月07日)のものです。予めご了承ください。