Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人はぐくむ会(埼玉県)
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はぐくむ会の概要
はぐくむ会は、多機能型事業所はぐくみ園(就労継続支援B型事業所・生活介護事業所)、第二はぐくみ園(生活介護事業所)、グループホームはぐくみ寮・第二はぐくみ寮、相談支援センターはぐくみ、逍遥の郷 医療型短期入所、ライフサポート部のびる(埼玉県障害児(者)生活サポート事業)等の障がい福祉サービスに取り組む社会福祉法人である。
この他にも、逍遥の郷(介護老人保健施設)、飛鳥の郷(特別養護老人ホーム)、はぐくみデイサービスセンター(共生型サービス事業)等の高齢者福祉サービス、地域福祉相談センターきざはし等の地域貢献事業も運営する。
現在の法人の原点となる「はぐくむ会」が発足されたのは、1978年である。自閉症やダウン症の子どもをもつ15家族が集まり、専門家を招いて子育て相談や登山、遊びの指導を行う療育キャンプに取り組んだのだ。11年後には社会福祉法人格を取得し、1990年に精神薄弱者通所授産施設(当時)はぐくみ園が開所されることになった。当時はまだ知的障がい者に対する世間の風当たりが根強かったことから、「寄居町大字末野」という山林の中にようやく土地を取得することができたのだという。
最大の特色は、「ロマンを求めて、人をはぐくむ」ことである。一人ひとりが持つ力を十分に発揮し、地域の人たちの協力を仰ぎながら、お互いに支え合える社会をつくる。こうした信念を掲げて着実に事業を続けた結果、40年でここまで大きな法人へと成長した。決して便が良いとは言いがたい立地にありながら、利用者の障がい程度に応じたさまざまな事業展開を模索することにより、現在では県内でもトップクラスの高い月額平均工賃を達成するB型事業所となっている。
地域と連携した生活介護のさまざまな生産活動
多機能型事業所はぐくみ園のうち、まずは生活介護事業の生産活動から見ていこう。ここでは炭焼き、炭加工、農耕、製菓、木工などの多様な作業を行っている。とくにはぐくみ園を代表するのが、設立時から取り組んでいる炭焼きだ。法人事務局長の根岸昭博さんは、次のように説明する。
「炭焼きの平窯は、法人の理事でもあった故・関根栄一さんの指導によって作られました。秩父地方に伝わる伝統的な秩父窯で、耐久性も十分。窯内部の温度は800℃以上に上昇しますから、高品質な炭を焼くことができます。以前はクヌギやナラ等を使い、お茶会に使ってもらえるような高級炭も焼いていました。残念ながら現在は材料の入手が困難なため、近隣から無料で伐採させてもらう竹を中心に焼いています」
竹炭から作られる製品としては、消臭効果を活かした「シューズキーパー」、インテリアにもなる「カゴ炭」、防虫効果があって入浴剤にも使える万能の「竹酢液」等がある。
製菓事業も、生産活動の大きな柱だ。くるみレーズン・ブルーベリー・チョコレート・チーズ・紅茶・地元特産のエキナセア茶等を練り込んだパウンドケーキやクッキーに加え、最近では地元の養鶏場(ナチュラファーム:食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる『JGAP家畜・畜産物認証』を国内で初めて全て取得した採卵養鶏場)の卵をふんだんに使用したカステラも製造している。
クッキー・パウンドケーキづくりを始めるにあたっては、「県内でも最大手の菓子メーカーである梅林堂さんにご指導いただいた」のだと、理事長の根岸瑞栄さんは語る。そのため美味しさには定評があり、道の駅・農林公園等6カ所程度の取引先に加え、町内の高等学校・保育園・幼稚園からも定期的に100個単位の注文が寄せられる。
「事業所の設立時に、利用者みんなでとりあえず体を動かそう」と始めた小さな農園作業は、2010年頃から埼玉県が熱心に進めている農福連携モデル事業に参加することによって、いつの間にか本格的なものに成長している。職員が営農資格を正式に取得し、トラクターを使って畑を耕し、タマネギの生産に特化。収穫後は、県の仲介によって県内の著名餃子メーカーにすべて引き取ってもらえる(M玉以上)体制まで整っているのだ。
B型事業所は、施設外就労で大幅な工賃向上を実現
これに対して、B型事業所の作業は、特別支援学校の清掃や高齢者施設(法人内特別養護老人ホーム・介護老人保健施設)の洗濯、リネン交換等の施設外就労だ。生活介護とB型との仕事の区分けが完成したのは、多機能型指定を受けた2018年以降と比較的新しいのだという。
「はぐくみ園には、昔からさまざまな障がい程度の利用者さんが一緒に働いていました。そのため、本来ならもっと働けるはずの人がまわりに影響されてしまうという問題を抱えていたのです。事業体系をB型と生活介護に分けても、同じ建物で働く限りは限界があると考えました。そこで法人内高齢者施設の仕事の中からB型利用者でも対応可能な作業を抽出し、少しずつ施設外就労のテストを行っていったのです」と、根岸瑞栄さん。
すると想像以上の効果があった。利用者たちの「働くことへの意識」が、格段に向上したというのだ。そこで、外部に依頼していたリネン交換なども利用者に任せることにするなど、仕事の幅を広げていった。こうした実績は、特別支援学校の清掃受託(障害者優先調達推進法に基づく県の仲介)へとつながり、大幅な工賃アップが実現できたのだ。これまでは一般の清掃業者に委託されていた仕事(室内・廊下・トイレ清掃、全フロアのワックスかけ、プール清掃等)だけに、要求されるレベルも高い。しかし施設外で働くことに徹底した結果、利用者たちの作業能力は驚くほど向上していった。
さらに数年前から、B型利用者の集合場所は町中にある寄居駅と変更し、「直行直帰」の体制を組んでいる。山の中にあるはぐくみ園に一度送迎してしまうと、そこから就労先に移動するのは大きな時間ロスになる。もう一つ大きいのが、毎朝の「朝礼」だ。はぐくみ園で行われる「朝の会」と違い、仕事の連絡事項や守るべきルールが徹底されるため、「仕事をするぞ」というムードが醸し出されていく。仲間に滅多に会えなくなった寂しさはあるだろうが、利用者の平均工賃はそれまでの10,000円未満から、41,000円(B型事業所:令和5年度実績)へと飛躍的に向上した。今や埼玉県内でも屈指の月額平均工賃を誇る事業所として知れ渡るようになり、高い工賃を求める意欲的な人たちが集まってくるという相乗効果も生まれている。利用者定員も、2016年度より15名から17名に増員したところだ。
「福祉にロマンを」の理念を持ち続けたい
法人の「はぐくむ」は、万葉集の歌(1791番/詠み人知らず)から命名されており、「育つ」という意味と、「かばい、守る」という2つの意味がある。遣唐使の随員に選ばれた息子を送り出した親が、空を飛んでいる鶴に向かって「困難があったとしても、その暖かい羽でかばい、守っておくれ」と願った歌である。そして「福祉にロマンを」という法人理念も、森繁樹法人初代理事長が作り上げた。
事業所の掲示板に掲げられたB型事業所利用者の今年の目標を見ると、「利用者同士の注意をしない」「シーツ交換はタイムを計ってがんばる」「障がい者雇用採用」と明確な目標をしっかり掲げている人がいることが目についた。はぐくみ園では一般就労にも力を入れており、作業能力を評価されて民間事業所にステップアップした方も少なくない。
「先日、町のイベントにはぐくみ園のブースを構えていると、わざわざ挨拶に来てくれた元利用者の方がいて、感激しました。彼女は今、別法人の特別養護老人ホームで働いているのですが、とても楽しく元気に仕事をしているようでした」と、管理者の川島裕之さん。
これこそが初代森理事長がめざしていた「利用者たちがちゃんと仕事ができるようになり、どこに出しても恥ずかしくない、挨拶もちゃんとできる人間にはぐくむ」成果と言えるのではないか。もちろん多くの事業所同様に、高齢化対応の課題も少なからず抱えているものの、高齢者施設を運営し、共生型デイサービスにも果敢に取り組む同法人であれば、利用者の希望に添った福祉サービスを提供し続けることは難しくはないだろう。「活き活きとその夢を語り、叶えるためにロマンを求め、人をはぐくむ」法人活動が、これからも順調に発展することを期待したい。
(写真・文:戸原一男/Kプランニング)
【社会福祉法人はぐくむ会】
https://www.hagukumukai.jp
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2024年07月01日)のものです。予めご了承ください。