Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人たんぽぽ福祉会(岐阜県恵那市)
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たんぽぽ福祉会の概要
たんぽぽ福祉会は、恵那たんぽぽ作業所(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)、恵那たんぽぽ福祉工場(就労継続支援A型事業)、くりくりの里中津川(就労継続支援A型事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)等の障がい者就労支援事業を展開する社会福祉法人である。
この他にもアメニティーハウス・エナ(生活介護事業・施設入所支援事業)、グループホーム(共同生活援助事業)8棟、恵那たんぽぽ地域生活支援センター(指定相談支援事業所)も運営する。
法人の原点となるのは、1971年に結成された「恵那市の障害児・者を守り育てる会」である。小板孫次さん(現理事長)の子どもが、一度小学校への入学を許可されたにも関わらず、半年で退学要請されたことに憤り、他の保護者(2名)と共に「(恵那市内に)知的に遅れのある子どもが通う特殊学級の設置を働きかける」大運動を繰り広げた。
1979年には卒業後の子どもたちの就労先を生み出そうと、恵那たんぽぽ共同作業所を開設。4年後に社会福祉法人たんぽぽ福祉会が設立され、知的障害者通所授産施設(当時)恵那たんぽぽ作業所がスタートすることになった。
以後、「はたらくことは、生きること」をテーマに掲げ、障がいのある人たちが地域で働く・暮らす──自立生活を実現できる活動を追及し続けている。
椎茸栽培から広がった様々な事業
恵那たんぽぽ作業所の現在の作業科目は、食堂運営・コンビニ・豆腐製造・グループホーム食材分け(モグハウス・エンジェル桜台店)、コインランドリー・防塵クリーニング・下請け作業(モグハウス・エンジェル千田店)、リサイクルショップ運営(エンジェルパーク)、木製ボールペン製造(木里工舎)…と、多岐にわたっている。これについて、総合施設長の遠山千里さんは次のように説明する。
「私たちの授産活動の原点は、無認可共同作業所を始めた時から取り組んでいる原木椎茸栽培です。原木を運んで並べ、水を撒き、椎茸を採取するといったさまざまな作業があるので、今でも障がいの重い人向きの重要な仕事として取り組んでいます。収穫した椎茸は、市場に卸すよりも、直接地域のみなさんに販売する方が儲かります。そこで椎茸を売る店としてコンビニ(雑貨店)を始め、規格外の椎茸を残さず使うために惣菜・弁当を作りだし、飲食店をオープンする…というように、事業所がどんどん増えていったのです」
その後法人として入所施設を開所していく中からも、新たな発想が生まれている。当初は給食用の食材を業者に発注していたのだが、自分たちが市場に行って仕入れた方が安上がりだ。どうせ仕入れるならば、多めに仕入れてショップで販売してみよう。グループホームを次々に開所していくと、それぞれのホームに届ける食材を給食メニューに沿って仕分け、配達(7カ所)するという仕事も生まれている。
2007年に開店したというエンジェルパークも、法人活動の原点を体現している事業所だろう。ここには地域住民たちが、鍋、シーツ、カップ&ソーサー、皿セット、新品の衣類などを「無料で」持ち込んでくれる。冠婚葬祭でもらったまま使わずに残っている不要品を、販売するリサイクルショップなのである。40年前、共同作業所を設立するための資金集めとして、同じスタイルのバザーを毎年のように開催していた。その流れを汲むショップであり、利用者たちはホコリだらけの商品を綺麗に拭き、立派な商品として陳列するという仕事に取り組んでいる。牛乳パックから作られた再生ハガキ・封筒などにも、たくさんの固定客が付いているそうだ。
原木切断から制作に取り組む木製ボールペン
もう一つ、恵那たんぽぽ作業所を代表する作業として「木里工舎(きりこうしゃ)」の木製ボールペン製造を挙げておきたい。岐阜県産の木を使ったオリジナル製品であり、当初から登録商標を取得。気象や環境に左右されがちだったこれまでの農業作業から、工業自主製品を手がけることで収入の安定・拡大を狙った。
製品に使われている木材は、ヒノキ、スギ、サワラ、ケヤキ、ブナ、ナラ、キハダの7種類である。使う木材によって価格は違うのだが、どれも1本2,000円〜4,000円(税別)という高級品だ。重量感あるボディは文字を書くときにしっかり安定し、木の手触りが使い込むほどに手に馴染んでくれる。発売から28年が経つ現在でも、ギフト用品・記念品として、官公庁、企業等から根強い人気を誇っているのもうなづける。
「製品づくりは、山から木を探すところからスタートします。土地柄、法人の山も、家族や知り合いの山もあるので、伐採する木には事欠かないのです(笑)。これを切断し、1年かけて乾燥させ、木材にしてからボールポン用の部材に細かくカットしていきます」と、遠山さんは語る。
もちろん最近では、品質管理の面から専門業者から木材を仕入れることが多くなったと言うが、これだけ完成度の高い工業製品づくりを「原材料加工からすべての工程」において、障がい者の就労事業所で作っていることは驚きだ。ボールペン用に木材を3つに細かく切り、インク芯を入れるため中央に細い穴を空ける作業、芯の長さに合うように部品サイズを微修正する作業、木目や色がぴったり合うように3つの部品を選択調整する作業…等々。木製ボールペンづくりならではの難しい仕事が、目白押しである。これだけ手の込んだメイドインジャパン製品であれば、高めの価格設定なのも当然だろう。
もっとも最近では不況のあおりもあり、価格にシビアになっているお客さんが増えているのも事実。「比較的安価に仕入れられる木だけに統一してもらったり、発注ロットによって、価格は柔軟に対応しています」(遠山さん)とのことなので、興味がある方は気軽に問い合わせしていただきたい(日本セルプセンターでも随時受付中)。ギフト用品なので紙箱入りが基本だが、ペンケースにもなる木箱(別売)とセットにすると、ワンランク上の高級ギフトになる。発注数も、1本から1,000本単位まで、要望に合わせていくらでも対応できるそうだ。
安定した自立生活を営むために、法人が目指すこと
こうしたさまざまな作業科目を組み合わせることで、恵那たんぽぽ作業所の現在の月額平均工賃(B型事業所)は、20,000円を超えるようになった。生活介護事業所に属する重度障がいのある方でも、最低工賃として10,000円以上を保障するというのが法人の基本的考え方である。もちろん「働く生活を通じて地域社会へ」という理想を実現するためには、それだけでは不十分だろう。そこで生活施設への取り組みが始まった1990年頃から、一般就労への取り組みや、恵那たんぽぽ福祉工場(A型事業所)や、くりくりの里中津川(多機能型事業所)など、新たな就労の場を次々に生み出している。
「恵那たんぽぽ福祉工場では、観光地の恵那峡にレストランとパン工房を併設した店舗と、年間10万菌床を栽培する本格的な椎茸栽培を展開しています。また、くりくりの里中津川は、下呂温泉に行く国道257号線沿いに建っていて、農産物販売所、和食処なかつ川、軽食たんぽぽ、バゲットとココット、手作り館夢工房という5つの店舗を運営しています」と、遠山さん。このような多岐にわたる事業を展開していった結果、利用者たちのさまざまなニーズに応えられる職場づくりが可能になったわけだ。
最後に、今後の抱負について理事長の小板孫次さんに語ってもらった。
「年々予算が削減される障がい福祉サービスの今後を考えると、現在の事業を淡々と進めるだけでは不十分であると痛感しています。利用者さんたちの充実した生活を保障するためにも、福祉予算に頼りすぎない独自の事業展開が必要でしょう。これからは、そんな時代にも対応できる職員の再教育が重要だと考えています」
保護者や地域住民たちに協力してもらったバザーの売上資金で無認可共同作業所を立ち上げてから、約54年。現在では恵那市内に数十カ所の拠点(就労事業所、入所事業所含む)を有する大きな社会福祉法人に成長した。障がいのある人たちが、生まれた地域で「生きること」「働くこと」「生活すること」を実現するために、たんぽぽ福祉会ではこれからもさらに前に向かって歩んでいくことだろう。
(写真提供:たんぽぽ福祉会、文:戸原一男/Kプランニング)
【社会福祉法人たんぽぽ福祉会】
https://enatanpopo.com
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2024年06月01日)のものです。予めご了承ください。