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社会福祉法人更生会(鹿児島県南九州市)

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社会福祉法人更生会(鹿児島県南九州市)

更生会の概要

 更生会は、障がい者支援施設「慈生園」(就労継続支援B型事業・生活介護事業・施設入所支援・就労訓練事業オリーブの樹)、給食センター「つどい」(就労継続支援A型事業)、障がい者支援センター「すてっぷ」(就労継続支援B型事業・生活介護事業・グループホーム望岳荘)、障がい者支援施設「榎山学園」(生活介護事業・施設入所支援事業・短期入所支援事業・相談支援事業)、グループホーム「アムール」(共同生活援助事業)、グループホーム「響」(共同生活援助事業)、地域交流センター「はやま」(放課後デイサービス事業・相談支援事業)等の障がい者支援サービスを展開する社会福祉法人である。

 この他にも、特別養護老人ホーム「望洋の里」(短期入所生活介護事業・通所介護事業・居宅介護支援事業)、養護老人ホーム「寿楽園」等の高齢者サービスも運営する。

 原点となるのは、1972年に開設された知的障害者更生施設(当時)榎山学園である。その10年後に知的障害者授産施設(当時)慈生園が開所され、障がいのある人たちの就労支援体制が整った。九州の最南端となる薩摩半島の大自然の中で、農業・食品加工・施設外就労(公園管理)等を柱とした事業展開を繰り広げている。

社会福祉法人更生会(鹿児島県南九州市)
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広大な農地でサツマイモ・ダイコン等を栽培する

 慈生園の事業の中でも、中心となっているのが農業である。管理者の上村広子さんは、次のように説明する。

「農業は、近隣農家さんの畑を借りたり、譲ってもらったりするところからスタートしたのですが、少しずつ増えて現在は50アール(5,000㎡)の規模にまで拡大しました。農家さんの高齢化も進み、耕作放棄地が増えていくに従って、私たちに使ってほしいという依頼が増えていったのです」

 この広大な畑で、1年間かけて主にサツマイモとダイコンを栽培する。収穫量もまた、桁違いの数値である。2つの作物共に、出荷のピーク時には500キロ入る袋を20袋、週3回ほど納品するというのだ。

 そのため、作付け、消毒(農薬散布)にも多大な労力を有する。もちろん畑を耕す大型トラクターを導入するなどの機械化にも取り組んでいるものの、基本的には利用者たちと職員たちが一丸となった人海戦術で対応する。

「とくに大変なのが、雑草を取るための消毒作業です。薬を噴霧する2メートル以上の長いノズルを持った部隊が4列になって、畑に撒いていきます。ノズルをもつ人、それをサポートする人、後ろでホースを持つ人、ホースを巻き取る人が一組になり、広大な畑の中を一歩ずつ進んでいくのです。1回の散布に3週間くらいかかりますが、終わる頃には最初に撒いた畑に雑草がまた生えてきます。本当に、毎日が雑草との戦いです」と、サービス管理責任者の成元和幸さん。

社会福祉法人更生会(鹿児島県南九州市)
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農業生産性を高めるために必要な、大規模化と畑づくり

 苗の植え付けにも、機械は一切使わない。土を盛って畝を作り、除草のために黒マルチと呼ばれるビニールを貼る。そこに苗を植えるための穴を空ける人、近くに苗を並べる人、苗を土に植える人…利用者たちの特性によって、細かく作業を振り分けていく。近隣農家でも苗の植え付けは人力で行うのが一般的だが、慈生園の方が作業スピードは速いらしい。農業の仕事において、重要なのは熟練度よりも「人手の数」である。作業に関わるスタッフの数が多ければ多いほど、効率が上がっていくのだ。

 収穫された膨大な量のサツマイモやダイコンを、現在はすべて契約会社(焼酎の原材料等を取り扱う問屋)へと納品する。以前は市場に卸していたらしいのだが、6年前に現在の方式へと変更した。これによって1年間安定した価格で引き取ってもらうことが可能になり、販路を開拓したり、取引先によって納品数を調整するなどの手間がなくなった。

「有難いことに、農福連携にとても理解ある企業さんなので、私たちは安心して生産に集中できるようになりました。作付面積が現在のように大きくなったのも、この契約が成立してからのことです。以前の畑は、約半分位の大きさでした。それ以降、年々大きくなっていったのですが、さすがに現在の50アールが限界かもしれません」と、成元さんは言う。

 これだけ広い農園にも関わらず、過去に一度も自然災害や病害などに遭わなかったというのも驚きだ。昨今は県内でもサツマイモの基腐病(もとくされびょう)が流行し、被害を受けた近隣農家も多かったらしいのだが、慈生園では無事だった。これは事業所に代々伝わる「収穫後にくず芋やダイコンの葉を残さず、畑からきれいに取り去ること」という教えを守っているためかもしれないと、成元さんたちは考えている。大勢の利用者たちの人手を有するからこそ、一般農家には真似できない畑づくりを実践することができる。それが結果的に、安定した生産力へとつながっているわけだ。

社会福祉法人更生会(鹿児島県南九州市)
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洋菓子製造への取り組みで、若い利用者を確保したい

 慈生園では、事業所内農園で栽培された作物を使った食品加工も行っている。梅干し、ジャム(マンゴー・金柑・すもも・ブルーベリー)、黒糖菓子などである。その中でもとくに近年力を入れているのが、シュークリームの製造なのだと成元さんは語る。

「もともと法人内の別事業所(つどい)で製造していた製品なのですが、パティシエが独立したのを機に、慈生園でレシピを引き継ぎました。カリッとしたサクサク生地の中に、甘さを抑えたカスタードクリームが入ったお洒落な味です。1個180円(税込)のシュークリームは、法人が運営するショップなどで現在、1日150個以上売れています。バザー時には、300個作ってもすべて完売するほどの人気製品なのですよ」

 農作業を中心としてきた慈生園には、一見似つかわしくないと思われる洋菓子製造への取り組みだが、ここには経営的観点からも大きな意味があるのだと上村さんは力説する。

「開所から36年がすぎ、利用者さんの高齢化も進んでいます。大自然の中で汗を流して働く仕事は尊いものですが、特別支援学校を卒業した若い人たちには敬遠されがちなのも事実でしょう。その点、お菓子づくりの仕事は女性にとても人気があります。大ヒット中のシュークリームの売り上げを伸ばしていくことで、若い利用者さんがたくさん集まってくれるように改革を進めていきたいと考えています」

 慈生園の現在の月額平均工賃は、26,201円(令和4年度実績)だという。農業が中心でありながら、これだけの月額平均工賃を達成している。しかも飲食産業がコロナ禍で下火に転じる前までは、30,000円を超える月額平均工賃だったというのだ。もう一度以前の実績を取り戻すためにも、「シュークリームを中心とした食品加工部門の売上向上に、全力を傾けたいです!」と熱くアピールする成元さん。利用者たちの働きがい、生きる喜び、自立生活の基盤づくりのためにも、今後も引き続きダイナミックな事業を展開してほしい。

社会福祉法人更生会(鹿児島県南九州市)
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(写真提供:社会福祉法人更生会、文:戸原一男/Kプランニング

【社会福祉法人更生会】
http://www.kousei-kai.or.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2024年05月01日)のものです。予めご了承ください。