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社会福祉法人誠心会(熊本県球磨郡)

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誠心会の概要

誠心会は、指定障害福祉サービス事業所みずき園(就労継続支援A型事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)を経営する社会福祉法人である。この他、グループホーム&ケアホームひかりや福祉の店九日町店なども運営する。

施設が建っているのは、九州山脈に囲まれた人吉盆地のほぼ中心である。辺り一面には広大な田んぼが広がり、近くには日本三大急流の一つとして知られる球磨川が流れている。米のみを原料とした球磨焼酎の産地として、多くの人に馴染みのある地名だろう。

作業品目は、素材にこだわり全国展開できる優れた商品の製造販売である。具体的には製パン・コーヒー焙煎・菓子製造・加工食品製造であり、とくに最近始めた「いきなり団子」と「幻の水餃子」の販売に力を入れている。

これらの商品の販売のためなら、どこへでも実演販売に出かけることをいとわない。全国展開に向けて商品のPR活動を積極的におこなっている障害者サービス事業所なのだ。

最高に美味しい「いきなり団子」を全国の人に届けたい

「いきなり団子」というお菓子をご存じだろうか? 熊本県民なら知らぬ人はいない有名な伝統菓子だが、全国的にはまだそれほどの認知度はないマイナー菓子だ。熊本親善大使となったタレントのスザンヌがバラエティ番組で紹介するようになってからは、若い人を中心に少しずつ知名度が上がってきた。しかし数年前までは、熊本県内のどんな土産物売り場でも「熊本名物」としてはあまり見かけない商品だった。

そんな「いきなり団子」をみずき園で製造するようになったのは、現在の小ブームが始まる前の2008年2月のことである。坂居誠施設長(56歳)はこの理由について、次のように語っている。

「以前は地域内で製パンとコーヒー焙煎だけをおこなっていたのですが、さらに事業を拡大するために全国をターゲットとした商品を発売したいと考えていました。そこで目を付けたのが、『いきなり団子』です。熊本では誰でも知っているお菓子でも、本当に美味しい商品というのは意外と見あたりません。最高に美味しい『いきなり団子』を作れば、古くて新しい熊本名物として全国に売り出せるぞと思ったわけです」

「いきなり団子」とは、輪切りにした生のサツマイモを小麦粉の団子生地で包み、それを蒸して食べるという、熊本地方に昔から伝わる菓子の一種である。突然の来客がきても「いきなり」できるという意味が、その名の由来とも伝えられている。サツマイモと小豆あんの組み合わせという「いきなり団子」最大の特色は、実は最近になって定着した製法らしい。

熊本県民にとってはふるさとの味でもあるこの商品、しかしお菓子としての完成度は低かったと坂居施設長は厳しい評価をする。

「アツアツの状態ならともかく、さめたらまったく美味しくありません。団子の皮が厚いし、イモも硬くなってしまうからですよ。昔から私は、もっと作り方に工夫が必要だなと思っていました。熊本県民だけでなく、全国の人たちからも美味しいと評価される商品にしたかったのです」

素材に徹底的にこだわった「いきなり団子」

そこで「みずき園」では、かつてない味の「いきなり団子」に仕上げるべく、独自の開発をスタートさせた。まずイモの選定である。普通は県内産のサツマイモを使うことが多いのだが、「地産地消にこだわらず、もっとも美味しいイモを使用する」との判断で、徳島県産の鳴門金時を選択した。甘みが強く、まろやかな口触りが特色である。そのため、他社の「いきなり団子」とは明らかにイモの食感が違う商品になった。その味たるや、まるでイモを砂糖で煮たかのような甘みと柔らかさである。

次に餡のバリエーション化だ。「いきなり団子」といえばサツマイモと小豆あんという概念を一新し、つぶあん、こしあん、しろあん、うぐいすあん、桜あんの5種類を用意した。見た目にも美しいし、あんの味が変わるので箱(10個セットで1、300円)で購入しても食べ飽きないというメリットがある。

三つ目の特色は、皮の薄さだろう。一般的な「いきなり団子」がさめたら美味しくないのは、小麦粉の皮が厚すぎるためだ。みずき園では、特殊な粉の配合で極薄の皮に仕上げているため、皮がほとんど主張しない。イモと餡の味を十分に堪能できるように計算されているわけだ。五色のあんが食欲を誘い、さめても味が落ちることがない。(むしろ少しさめた方が、イモの甘みを堪能できる美味しい食べ方とのこと)そんな理想的な商品を作り上げることに成功した。

「味には絶対的な自信がありますね。一度食べてもらえれば、『いきなり団子』ってこんなに美味しいんだって、感動してもらえると思います。スザンヌちゃんのおかげで全国区になりつつあるお菓子ですが、ホンモノの美味しさをもっとたくさんの人に知ってもらいたい。そのためにイベント会場に積極的に出店し、実演販売の機会を増やしているのですよ」と、坂居施設長。

各地に蒸籠を持ち込んで蒸し立てホカホカの「いきなり団子」を提供するみずき園特有の実演販売スタイルは、どこの会場でも注目の的である。県内や福岡県はもちろん、遠くは関西や東京、福島県の様々なイベントにも出店して圧倒的な人気を得た。どの会場でも毎回、1,000個以上を売り上げるヒット商品になっている。今後も「チャンスがあれば、全国どこへでも出かけていきますよ」と、坂居施設長。イベント出店をきっかけにして、少しでも全国進出の足がかりにしたいという意欲が満々である。

満を持して発売スタートした「幻の水餃子」

みずき園のもう一つの注目商品が、2010年11月に発売されたばかりの「幻の水餃子」だ。開発に一年あまりかけたという、坂居施設長自慢の逸品だ。「いきなり団子」が熊本に古くから伝わっている伝統菓子をリニューアルした商品なのに対し、「幻の水餃子」は熊本の新しい名産品をゼロから作り出そうという試みだ。

熊本の名産品とするため、餃子の材料は県内産の超高級素材にこだわった。熊本県坂本牧場で飼育されている幻の豚「梅山肉(メイシャントン)」と、熊本県菊池市の一部でしか栽培が許されていない幻の椎茸「204」である。「メイシャントン」という豚は、全国でも100頭余りしか存在しない希少品種。中国太湖豚系の原種豚で、さらりとした上質の脂肪分ゆえに古代から最高級の豚肉と評されてきた。肉に含まれるオレイン酸の含有率が多く、豚肉特有の臭みがまったくないことが特徴だ。

「2つの熊本産超高級素材を見つけたとき、これで水餃子を作ろうとひらめきました。焼き餃子にしなかったのは、あまりに素材が素晴らしかったからですね。焼き餃子と違い、水餃子ならごまかしはまったく効きません。素材の味を十分堪能できるわけです。それに日本では焼き餃子があまりにポピュラーすぎるので、あえて水餃子という新しいムーブメントを作りたいという気持ちもありました」

最高の水餃子にするため専用の担当職員を決め、餃子のあんや皮づくりに何度も試作を重ねて研究した。あっさりした味が特色の「メイシャントン」を使うため、素晴らしい香りを放つ高級椎茸との配合バランスに気を使う。さらには、水餃子の命ともいえる皮づくりである。モチモチ感あふれる皮でありながら、茹でても溶けにくい皮にしなくてはならない。独自の小麦粉の配合により、モチモチした歯ごたえが長く保てる「幻の水餃子」専用の皮が完成した。

タレにもこだわりを見せている。水餃子の味を最大限に引き出すオリジナルタレを作り出すべく、半年以上の月日をかけて開発をおこなったのである。

「一般的なポン酢醤油で水餃子を食べると、醤油の辛さとポン酢の酸味が強すぎて、あっさりした水餃子の味を消してしまうと思いました。そこで一番気を使ったのが、辛みが少ない醤油探しです。減塩50%の特殊な醤油を探し出すまで、何度試作したかわかりません。もう素人の私にはタレの開発が無理かなって、一度は諦めかけたほどですよ(笑)。この醤油に、京料理に使う千鳥酢を加え、野菜やフルーツを加えて作ったのが、この『万能だれゴールド』なんです。コクと深みがありながら、醤油の辛みがほとんどありません。そのまま飲めるほどですよ。水餃子だけでなく、水炊きや湯豆腐のタレとしても使っていただける製品に仕上がりました」

製品の評判は上々だ。熊本県人ですらほとんど知らない超高級素材を惜しみなく使った食品のため、新しい熊本名物としてメディアも注目し始めている。熊本にもこんなに素晴らしい食材があることを、今後多くの人たちが「幻の水餃子」を通じて気づいていくきっかけになることだろう。

めざすは、全国展開。次なる商品のアイデアも続々。

みずき園が「いきなり団子」や「幻の水餃子」でめざしているのは、全国展開の販売活動である。地元を対象とする事業活動だけでは、いつまでたっても工賃倍増などおぼつかないし、施設そのものの発展もあり得ない。どうせやるなら高い工賃を支払える事業所にしたいし、基本的にはすべての事業が就労継続支援A型事業として成り立つようにしてみたい。そのためには全国販売が可能で、他にはないオリジナル商品を開発する必要があるのだと、坂居施設長は語っている。

「どこにでもある商品を作って福祉関係のバザーで売る。そんな販売の仕方はとっくに通用しない時代になっていると思います。いくら福祉施設の製品だといっても、消費者は本当においしいもの、必要なものしか見向きもしませんよ。これから大切なことは、全国を見据えた事業展開に尽きます。そのためにも他県、とくに東京や大阪、福岡などの大市場圏とのコンタクトを積極的にとっていきたいですね。現在はパンとコーヒー部門のみが就労継続支援A型事業となっていますが、今後の売上次第では「いきなり団子」や「幻の水餃子」部門もA型事業に転換したいと考えています」

出店するイベント会場の内容や季節によっては、イチゴ氷(生のいちごを大量に入れたまま凍らせた煉瓦氷をスライスしてミルクをかけて食べる商品)や、タピオカパフェ(タピオカ・コーヒーゼリー・ソフトクリーム・マンゴー・チェリーを重ねたオリジナル商品)、地鶏の炭火焼き(ドラム缶炭火で焼き上げ、最後にバナーで焦げ目をつけるパフォーマンス付)等を提供して売上を稼ぐというたくましい商売魂を持つ、坂居施設長。アイデアはたくさん持っているようで、現在構想中の新製品だけでも語り出したら止まらない。

「当園が作り出す熊本名物をご紹介いただけるイベントがある場合には、ぜひ紹介いただきたい」との施設長からのメッセージを、最後に紹介しておくことにしよう。美味しい「いきなり団子」や「幻の水餃子」と実演販売機材を担いで、熊本県の球磨群から「みずき園」のスタッフたちがあなたの町にもやってくるかもしれない。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2011年02月21日)のものです。予めご了承ください。