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社会福祉法人周陽会(山口県周南市)

公開日:

七つの事業から成り立つ障がい者の就労支援

周陽会は、社会就労センター セルプ周陽(就労継続支援B型事業)を運営する社会福祉法人である。定員40名(現在55名と利用契約締結中)の施設の中に、

  1. 印刷事業(オフセット印刷・オンデマンド印刷・組み版・製本等)
  2. 軽作業事業(ウエス加工・委託作業等)
  3. お土産うどん事業(手打うどんくうかいお土産箱詰め・発送)
  4. 甘塩棒スナック事業(うどんスナック製造・販売)
  5. うどん店舗事業(UDON陽(ひなた))
  6. 緑地維持管理事業(草刈り・除草・灌水作業・指定管理委託業務)
  7. 施設外就労(周南市役所印刷室・工場内アッセンブリ事業・徳山医師会病院内軽食サロン)

といった多種目の作業を用意することを特色としている。一法人一施設という比較的小規模の施設ながら、さまざまな事業を多角的に展開し、それぞれが着実に成長を続けている。

うどんの名店に指導を仰いだ、UDON陽(ひなた)

社会就労センター セルプ周陽の多くの事業の中でも、代表的な存在はやはりUDON陽(ひなた)だろう。これは施設に隣接するうどん店であり、2009年の新体系移行時に施設の看板的存在としてオープンした。その狙いを、北野克志施設長は次のように語っている。

「当時は印刷・陶芸・軽作業の三つの作業を行っていたのですが、それだけでは事業的に先が見えなくなってきた。なんとか現状を打開する新しい事業として、飲食店が選ばれました。うどん店を選択したのは、当時の担当者(現:田中勉係長)の強い希望があったからですね。彼を香川県のうどん専門学校に派遣したり、地元の名店『くうかい』の店主にアドバイスをもらったりしながら、数年がかりで開店準備をおこないました」

その甲斐あって、現在では本格的な美味しいうどんを提供する店として地域では有名になっている。UDON陽のうどんの特色を、現在の担当者である守田陽指導員は熱く語っている。

「当店のうどんの最大の特色は、完全手打ち。粉を練って脚踏みする作業から裁断に至るまで、一切機械には頼りません。毎朝6時半から仕込みに入り、打った麺を注文が入るたびに茹でて提供し、売り切れたら終了です。うどんの本場讃岐でも、ここまで手作業にこだわっている店は数店のみになってしまったと聞きます。私たちは『くうかい』の店主の教えに則って、今時珍しい本格的な手打ちうどんを提供することにこだわっているのです」

うどんだけでなく、ダシにももちろん力を注いでいる。伊吹いりこ、昆布、しいたけ、混合節の4種類を独自の割合で配合して丁寧にダシを取り、県内産の甘めの醤油を加えて完成する。これによってうどんの味を最大限に引き出すすっきりした味わいのダシが完成するわけだ。

「打った麺は定期的に『くうかい』に持っていって店主にチェックしてもらうなど、つねに品質管理は徹底しています。完成度にはある程度自信はありますが、もちろん『くうかい』のレベルにいたるには、まだまだ。でも利用者も一緒になって丁寧につくりあげるダシの味は負けないぞって、密かに思っているんですけどね(笑)

守田陽指導員たちの努力の甲斐あって、現在では毎日平均40食程度、休日には80食を提供できるレベルまで成長した。こだわりの手作りうどんをリーズナブルな価格で楽しめる店として、地域では少しずつ浸透しつつあるようだ。目標とするのは「くうかい」と同じように、毎日行列が出来る店なのだという。もっちりしていて腰があり、しかも細くてソフトな食感のUDON陽のうどん。本当に美味しいこのうどんなら、決して実現不可能ではないような気がする。

手打ちうどん事業から発生した二つの事業

もちろん、うどん店だけの展開では事業的に限界がある。そんな観点から、うどん事業を発展的に継承して生まれたのが「甘塩棒スナック」と「手打うどんくうかいお土産うどん」だ。

まずは、甘塩棒スナックである。こちらは余ったうどんの端切れを再利用するために作られたお菓子。手打ちうどんを毎日作っていると、どうしてもうどんの余りや端切れが出てしまう。捨てるのももったいないのでこれを揚げてみたところ、スナック感覚でとても美味しかった。そこで山口県産の原料とオリジナルの配合にこだわり本格的に商品として売りだそうということになる。それが「甘塩棒スナック」というわけだ。植物油でカリッと揚げたうどんに、さまざまなフレーバーを加えると若者向きのお菓子に大変身。現在、梅こぶ茶、シナモン、チリガーリック、ココアの四つの味で売り出している。甘塩棒スナック事業担当の宮下祐香莉指導員によると、今後は女性向きの味付けを研究中とのことだ。

「手打うどんくうかいお土産うどん事業」というのは、うどんの名店「くうかい」の持ち帰りお土産うどんの販売活動である。うどん(半生うどん)やだし醤油、レトルトカレーなどの製造そのものは、「くうかい」の監修の下に業者で製造された製品なのだが、それをパッケージ化して販売する権利そのものを委託された。下請けともOEM生産とも違う、ニュータイプの事業と言えるだろう。

「『くうかい』の店主の希望によって、他社に委託していたこの仕事を私たちに任せてもらえるようになりました。店主が関わるのは、品質管理のみ。それぞれの製品の発注から在庫管理、箱詰め、シール貼り、そして営業活動に至るまですべて私たちがおこないます。私などは、『手打うどんくうかい』の名刺を持って営業回りしているものですから、お客さんにはすっかり『くうかい』の従業員だと間違えられていますよ(笑)

と、「手打うどんくうかいお土産うどん」担当の河本真治指導員。「くうかい」といえば今や、山口県周南地区ではうどん好きなら誰もが知る名店である。そのため地域のスーパーや土産店、道の駅等への営業活動は順調に進み、ネット販売でも好評を博しているらしい。事実、このお土産うどん事業だけでも年間売上は1,000万円を超え、目標としては2,000万円を目指している。他社ブランドのものを売るというジレンマは多少残るものの、あくまで師匠の店の製品である。しかもブランドを背負うことによって培った営業ノウハウや人脈の広がりは、セルプ周陽の貴重な財産となることだろう。河本真治指導員も、その意見に同意する。

「『くうかい』の名前を出すと、本当に営業がしやすいですね。おかげさまで地域の有名な店舗などへの販売は、どんどん広まっています。販売が決まった店舗には、必ずセットで『甘塩棒スナック』の販売もお願いするようにしています。これからもお土産うどんを切り口にして、セルプ周陽の存在を積極的に地域にアピールしていきたいですね」

今後は、施設外就労にも力を入れていく

社会就労センター セルプ周陽では、施設外就労にも非常に力を入れている。現在、利用者契約を結ぶ55名の中で、なんと28名が施設外就労に携わっているのだという。この理由について、北野施設長は次のように説明する。

「施設の設立以来、約32年。増築や改築を重ねてなんとかやってきましたが、それにも限度があります。多くの利用者を受け入れてくためには、施設外就労の場を増やしていくことが必要なのです。高い工賃を獲得するという観点からも、この取り組みは大切ですね。外の世界に触れることで一般就労に向けた訓練にもなります。施設としても、施設外で利用者が働く機会を今後も積極的に導入していきたいと考えています」

周南市共同受注センターの官公需で受注した周南市リサイクルプラザの緑地維持管理をおこなっている現場を見学すると、利用者たち数名が淡々と草刈り機で雑草を刈っていた。立っているだけで汗が滲み出るような強い日差しの日中である。この中で体を動かす作業は、そうとうの辛抱力が必要に違いない。小林延浩指導員によると、外の現場に出るようになってから、彼らは目に見えるように成長しているのだという。

「対人関係の挨拶や、時間を守ることなど。基本的なことばかりですが、仕事をする上では大切なこと。施設の中ではなかなか守れなかったルールを、キッチリできるようになりました。外で働いていると、何よりも働くための基礎体力がついていきますね。このまましっかり成長していけば、将来的には一般就労も視野に入ってくるのではないでしょうか」

この他にも、印刷や軽作業など、冒頭にも記した七つの事業を組み合わせることによってセルプ周陽の事業は近年着実に成長を遂げてきた。現在の平均工賃は、約28,000円。国や県から工賃向上計画が策定されるたびに、計画に則って着実に事業を推進してきた結果である。もちろんスタッフ一同、現状に満足するそぶりはない。さまざまな事業部門が一体となって営業展開を図るというその組織体制こそ、セルプ周陽の底力であるといえる。UDON陽の成長とともに、これからもつねに施設全体の事業は拡大し続けていくに違いない。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人周陽会
社会就労センター セルプ周陽(山口県周南市)
http://www.shuyokai.com

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2015年09月01日)のものです。予めご了承ください。